ゴールデンウイークは、国内の旅行客とインバウンド(訪日外国人旅行)で日本各地が多いに賑わった。しかし、特定の地域に観光客が急増するオーバーツーリズムの問題も深刻化している。インバウンド需要を取りつつ、オーバーツーリズムを解消する策について、経営コンサルタントの大前研一氏が提言する。
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岸田文雄首相は今年1月末、通常国会の施政方針演説で2030年に訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円の達成を目指す考えを示した。しかし今のところ、それに向けて有効な手を打っているとは思えない。
政府は日本人と訪日外国人を合わせた旅行消費額が2030年に52兆5000億円になると予想しているが、訪日外国人旅行者数が6000万人に達するとすれば、私はインバウンドだけで50兆円を目指すべきだと思う。実質GDPの10%にも匹敵する成長機会(観光ポテンシャル)を日本は持っているからだ。
ところが、観光政策の企画・立案を担う観光庁(JNTO)は、その名の通り国土交通省の外局の「庁」であり、2024年度の予算額は約500億円でしかない。政府が本気で「観光立国」のテーマに向き合うなら、観光庁を「省」に格上げし、大使館や領事館などの在外公館に同省の担当官を置いてインバウンドを呼び込むPR活動を大々的に展開すべきである。
「何もない田舎」こそが観光資源
たとえば、いま欧米人観光客に人気なのは岐阜県の飛騨高山で、その魅力は「何もないこと」だ。江戸時代の古い町並みが残っているだけで、名物は朝市やお守り人形のさるぼぼ、飛騨牛、高山ラーメンくらいである。
あるいは、徳島県の大歩危小歩危と祖谷のかずら橋。大歩危小歩危は約8kmの渓谷で、大理石の彫刻がそそりたっているかのような独特の美しい景観の中をスリル満点の舟下りやラフティングを楽しむのが外国人旅行者の定番だ。祖谷のかずら橋は、野生のシラクチカズラを編み連ねて架けられた原始的な長さ45m・幅2mの吊り橋で、橋床の隙間から14m下の谷底が見え、吊り橋の揺れと相まって渡る人は適度なスリルを味わうことができる。