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朝日新聞・角田克新社長の人物像 「新人時代から特ダネを抜きまくり」当時のNHKライバル記者が明かす敏腕エピソード

 オウム真理教の東京総本部前での思わぬ「再会」

 今考えてもこれ以上なく率直で、かつ恥ずかしいセリフだ。X検事は渋い顔でしばらく黙っていたが、しょうがねえなあという感じでカバンから書類を取り出しテーブルに置いた。

「これで何とかなるだろ」

 何とかなるどころか、ネタの宝庫になる文書だ。ひたすらメモを取った。帰り際、X検事が釘を刺した。

「これっきりだからな。こんなこと二度とないからな」

 実際、X検事が現役の間、捜査情報を得たのは、後にも先にもこれっきりだった。抜きまくりの角田とは、その後、思わぬところで再会する。1995年、東京・南青山。オウム真理教の東京総本部前。地下鉄サリン事件などで世情は騒然とし、取材陣が常時詰めかけていた。そこに動員された私は、見覚えのある顔に気づいた。

「お~い、角田じゃないか」

「あっ、相澤さん、お久しぶりです」

「お前、どうしてるんだ?」

「僕、今、東京社会部でP担なんですよ。きょうは応援でここに」

 Pとはprosecutor(検察)。P担はマスコミ用語で検察庁を担当する記者を指す。難関だが重要な検察取材を担当するのは優秀な記者と見込まれている証だ。

「さすがやなあ。俺も社会部に来たんだよ。お互い頑張ろうぜ」

 それっきり奴とは会っていない。風の便りに東京の社会部長など要職を歴任しているとは聞いていた。そしてついに新社長に。「栴檀は双葉より芳し」という言葉を思い起こす。テレビ朝日の“天皇”とも言われる早河洋会長(80)とズブズブだとか、社の内外で何かといろいろ言われているようだけど、私のなかでは「人懐こく人好きのする優れ者の新人記者」そのままだ。最近の写真を見ると、だいぶ貫禄がついたようだが。

 ところで朝日新聞と言えば気になることがある。「記者の処遇」だ。高知新聞で新聞協会賞を受賞し、鳴り物入りで朝日に移籍した後も原発報道で再び新聞協会賞に輝いたYさんを、編集委員から平の記者に異動させ、そのまま定年を迎えさせたこと。北海道新聞から転職してYさんと同じく原発報道で名を馳せ、今も原発追及の本を出しているAさんを記者から外し、追い出し部屋みたいな職場で働かせるとか。適性で判断? どこがやねん。私も6年前、NHKで記者を外された時、国会で当時の理事が「適材適所」と答弁したことを思い出すよ。

「人は石垣 人は城」と武田節でうたわれるように、人は組織を支える基本じゃないか。“角田節”はどうなるのかな? 朝日が“落城”しないよう、本当の適材適所に目配りして難局を舵取りしてくれ。初任地のライバル(?)より。

文/相澤冬樹(あいざわ・ふゆき):ジャーナリスト。1962年、宮崎県生まれ。1987年NHK入局。2018年に森友事件の取材の最中に記者職を解かれ退局。財務省の決裁文書改ざん問題で自殺した近畿財務局の元職員、赤木俊夫さんの手記を遺族から託されスクープした。主な著書に『メディアの闇──「安倍官邸 VS. NHK」森友取材全真相──』など。

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