「私はめちゃめちゃ母親に依存していました。だからこそ将来を考え、母を捨てることを選択したんです」──そう語るのは『母を捨てる』の著者で、ノンフィクション作家の菅野久美子さん。彼女に残っている最も古い記憶は、4才のときに母から受けた虐待だ。(特集「家族を捨てる」全文を読む)
「家に帰るなり母の顔が鬼のような形相になり、父の仕事部屋に連れていかれ、頭から毛布を被せられて首を絞められました。意識が遠のいて、呼吸がぜーぜーと浅くなったのを覚えています。1回だけではなく、何度もそうしたことがありました」(菅野さん)
呼吸ができず苦しむ幼い娘に、母は何度もこう声をかけたという。
「あんたなんか、産まなきゃよかった」
菅野さんの両親は教員だったが、母は結婚を機に退職して誰も知り合いのいない父の地元に住むことになった。キャリアを絶たれ、未知の場所で生活せざるを得なくなった不安とストレスが、母を虐待に走らせたのかもしれないと菅野さんは述懐する。
やがて弟が生まれると、母は弟を溺愛して娘をネグレクトするようになった。
「虐待されたうえ、母が弟に注ぐ愛情が自分には向けられず、自己肯定感が低い子供になりました。一方で小学校の頃、私が数々の作文コンクールで賞をとると、母は“久美子は私に似て文才がある”と褒めてくれた。普段、愛されているという実感がなかったからこそ母に注目されると私はうれしく、舞い上がって期待に応えたい一心で努力し続けました」(菅野さん・以下同)