ハーレーダビッドソンが、自らのブランドイメージにおける新たな選択肢として用意したXシリーズ。今回、日本に投入されたのは、普通二輪免許で乗れるハーレー初のモデルとして話題となった「X350」と、軽快なアメリカンロードスターの魅力に溢れた「X500」の2台。「X350」は気軽さが最大の魅力であり、人々の関心もそこに集中した。それに対して「X500」には、大排気量のビッグバイクへと誘うかのような力強い走りと、重厚さを増した魅力的な佇まいがあるという。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」、今回は、自動車ライターの佐藤篤司氏がハーレーダビッドソンの中排気量モデル「X500」を試乗レポートする。
ビッグバイクの雄、ハーレーダビッドソンのDNAがしっかりと宿る佇まい
多くのライダーが憧れるハーレーダビットソンに乗ろうとすれば、排気量の制限なく自由にバイクを楽しむには限定解除、つまり「大型2輪免許」の取得が必須でした。確かに独特の操作感が求められるハーレーダビッドソンには一定以上のスキルが求められるのは仕方がないことです。そんな中で2023年、中国市場向けとして登場し、少し遅れて日本にも上陸を果たしたのが、コンパクトさと軽快な走りを特徴とするXシリーズの2台です。
この新しい個性にはハーレーダビッドソンの象徴でもある排気量1000ccオーバーのV型ツインエンジンではなく、並列2気筒のこじんまりした(ハーレーとしては)エンジンが搭載されています。その佇まいを見て「ハーレーだ」と認識する人は多くはありません。一方で、その気軽さに興味を抱いたファン、いや厳密に言えば「新たなハーレーファン」は多いはず。彼ら(彼女たちも)は憧れを抱きつつも、やはり重量級ボディと大排気量のV型ツインエンジン、足を前方へ足を投げ出すように乗る独特のライディングスタイルと、乗りこなしに求められるスキルに対し、ある種の敷居の高さを感じていたと思います。そうした人たちにとって普通2輪免許で乗れる「X350」、大型2輪免許は必要でも何とか操れそうな排気量500ccの「X500」といった2台は、まさに福音。憧れのブランドへの足がかり、あるいは入門用として大きな支持を得ることになったのです。発売から1か月という短期間でありながらも2台合わせて1000台を受注。今も好調さを維持していると言います。
その理由のひとつは佇まいです。一般的にアメリカンタイプのシンボルとして捉えられているハーレーダビッドソンと言えばアップハンドルに低いシート高、足を投げ出すように置くステップ位置など、フォワードフットというスタイルを思い起こします。しかし、Xシリーズは真逆。ハンドル位置が低く、足を置くステップも後方の少し高い位置にセットされ、そのライディングスタイルは前傾姿勢の正統派ポジションです。
確かに一般の人がハーレーダビッドソンというブランドに抱く伝統的な雰囲気を感じられないかもしれません。しかしハーレーダビッドソンには1970年に登場した「XR750」と言うダートトラックレーサーが存在し、全米のレースシーンを席巻しました。Xシリーズは、その往年の名車へのリスペクトとDNAを感じさせる佇まいがあります。
当然ですが、そこには憧れの大排気量ハーレーダビッドソンの魂が宿っています。今回の主役、X500で見れば、丸みのあるティアドロップ型(涙型)のガソリンタンクやスポーツスター(Sportster)という人気モデルに似たリアフェンダーなど、細かな部分のデザインには“らしさ”を感じさせる演出が見えるのです。そうした佇まいがあるからこそ、ハーレーファンも認める存在になったのかもしれません。