パンダの貸し出しはトップ外交の成果、日本からパンダがいなくなる可能性も
上野動物園のパンダ以外でも、繁殖研究目的のため1994年には和歌山のアドベンチャーワールドにエイメイとヨウヒンの2頭が貸し出され、その後来日したメイメイが産んだ良浜は10頭の赤ちゃんを産むなど、“日本一の大家族”となった。
2000年には、兵庫県の神戸市立王子動物園にもコウコウとタンタンの2頭が貸し出されたが、2010年にコウコウ(2代目)が亡くなり、今年3月にはタンタンが天国へ旅立って王子動物園からはパンダが消えた。王子動物園だけでなく、秋田や仙台などがパンダ誘致に名乗りを上げているが、ラブコールはなかなか届いていない。
家永さんは「停滞する日中関係を打開しようとする機運は何度かあった」と分析する。2019年には、安倍晋三首相(当時)が中国の習近平国家主席に国賓として来日するよう招聘した。
「国内では新たなパンダ来日への期待が高まり、複数の都市が誘致に前向きな姿勢を示しましたが、新型コロナの流行もあり習氏の訪日は実現しておらず、パンダ外交も滞っています」(家永さん・以下同)
家永さんは理屈上、国内のパンダがゼロになる可能性もあると指摘する。
「借りているパンダなので、当然いつかは返すことになります。延長を申し入れたときに日中関係がものすごく冷え込んでいたら、中国は期限通り回収し、新規の貸与にも応じないでしょう。
ただし中国にとってパンダは外交上の重要なツールで、相手国に送り出すことに意義を見出しています。日中国交正常化や、日中平和友好条約の周年といった節目のタイミングで、日本にパンダを歓迎する雰囲気があると見越せば、中国がパンダの提供を申し出ることは充分あり得ます」
その好例がアメリカだ。昨今、米中対立が深まるなか、これまでアメリカに貸与されていたパンダは貸出期限が延長されず、相次いで中国に返還されていた。だが5月29日、ワシントンの国立動物園はパンダ2頭が新たに中国から貸し出され、年内にも動物園に到着すると発表。米メディアは米中両国が関係の安定化を図ろうとする動きの一環との見方を伝えた。元TBS記者で中国での特派員経験もあるフリージャーナリストの武田一顯(かずあき)さんが解説する。
「結局、パンダの貸し出しはトップ外交の結果です。アメリカにパンダが来るのも昨年、習近平国家主席とバイデン大統領が直接会ったから。最終的にパンダの貸し出しを決定するのは習氏なので、日本はパンダがほしければ習氏を国賓として日本に呼ぶ必要があります。中国の台頭を嫌がって習氏の訪問を避けるような対中路線ではなく、堂々と日本を訪問してもらえばいい。重要なのはトップ同士の対話であり、それがパンダに近づく道でもあります」
新たなパンダが日本を訪れるとき──新時代の日中友好史の幕開けかもしれない。
(了 特集「パンダがつないだ日本と中国の50年史」全文を読む)
※女性セブン2024年6月20日号