農林水産省は5月、「関東、東海、近畿、中国、四国及び九州の一部で果樹に被害をもたらすカメムシの発生が多くなるだろう」と発表した。ほかにも蚊、ダニ、ゴキブリなどの動きも活発になっている。なぜこれほど害虫がわいているのか──。害虫防除技術研究所代表の白井良和さんが説明する。
「実は害虫に限らず、地球温暖化の影響で虫全般の数が増え、活動範囲も広がっています。たとえば、温暖な地に生息するヒトスジシマカ(通称やぶ蚊)は、1948年頃、生息の北限が栃木県でしたが、2015年には青森県八戸市まで北上しています」
蚊は、気温が氷点下になる日が続けば死滅するが、暖かければ卵や成体で越冬し、翌年新たに生まれた蚊と共に活動するため、数が増えたと感じるわけだ。
「ヒトスジシマカは現在、北海道には生息していません。とはいえ、年間平均気温11℃以上が生息条件なので、これを満たす函館市、札幌市周辺が北限になる可能性も出てきています」(白井さん)
このほか、外国人観光客が自国からトコジラミなどを連れてきて繁殖させるケースも。いずれにせよ増えた分、害を被る確率が上がる。ヤツらの弱点を知り、戦う術を身につけよう。
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《蚊》染症を媒介する最凶の害虫
蚊といえば、吸血害虫で知られるが、ヤツらの恐ろしさはそれだけではない。2022年に公表された世界保健機関(WHO)の報告によると、推計61万9000人がマラリアで死亡している。この病気はマラリア原虫をもった蚊(ハマダラカ属)に刺されることで感染する。蚊は、感染症を媒介するから恐ろしいのだ。
「蚊はマラリアだけでなく、黄熱、日本脳炎、デング熱なども媒介します。いずれも死に至るケースがある恐ろしい病気で、それゆえに蚊は、世界で最も多くの人を殺している生き物とされているのです」
とは、殺虫剤の製造・販売を行う大日本除虫菊の中央研究所 生物研究室室長・引土知幸さんだ。対策は、殺虫剤の活用だ。
「特に海外渡航時は要注意。亜熱帯や熱帯地域にはハマダラカのほか危険な蚊が生息しています。常に長袖を着用し、露出した肌には虫除けスプレーをこまめに塗布しましょう」(引土さん)
【生態】
「日本には約110種の蚊がおり、よく見られるのは約20種。3~10月に活動し、気温22~27℃で特に活発になります」(引土さん)。次の2種が生活圏内によくいる。
■アカイエカ
側溝などで繁殖。25℃なら約14日で成虫に。
■ヒトスジシマカ
少量の水があれば増殖し、25℃なら約14日で成虫に。
【出没地】
■アカイエカ
夕方から夜に吸血活動を行う。池や下水溝、側溝、浄化槽、水田など比較的広い水場で繁殖する。移動性が高い。
■ヒトスジシマカ
朝方から夕方に吸血活動を行う。気温が高いときは草むら(やぶ)などで人を待ち伏せするためやぶ蚊ともいわれる。
【対処法】
幼虫(ボウフラ)の発生源である水たまりを作らないこと。室内では殺虫剤を使用して予防する。屋外で活動するときは、長袖・長ズボンを着用して肌の露出を避け、虫除けスプレーの活用を。