今や日本の全世帯(5191万世帯)の3割以上を高齢者(65歳以上)の「一人暮らし」「夫婦のみ」世帯が占めている(合わせて1568万世帯)。そうした親と離れて遠方に暮らす現役世代を待ち受けているのが、親の死去に伴う「葬儀」「遠距離相続」だ。亡くなった親の入院費用や葬儀費用の支払いに、親のお金を使うのは自然なことに思えるが、やり方によっては「法」に触れる恐れがあるという。3月に母を亡くし「葬儀」や「遠距離相続」の当事者となったフリーライターの清水氏が、専門家に取材した。
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親が亡くなって葬儀をすませ、その後、入院費用や葬儀費用を親が遺した預金で支払おうとしたら、こちらから届け出たわけではないのにいつの間にか口座が凍結されていて、預金を引き出せなかった──。
“都市伝説”だと笑う人もいるが、筆者は実際に体験した。今年3月に母が死去し、JA系列のJA葬祭に葬儀を依頼したのだが、申し込み窓口がJAの支店だったため、母が預金していたJAバンクの母の口座が凍結されてしまったのである。
金融機関は口座の名義人が死亡したとき、相続人の誰かが他の相続人に無断でお金を引き出すといった相続トラブルを防ぐため、口座を凍結する。凍結を解除する手続きでは、故人の出生から死亡までつながった戸籍謄本や印鑑証明書などの証明書を収集する必要があり、これが非常に手間がかかる。筆者は各地の役場を回って戸籍謄本を集めるために、レンタカーで300kmくらい走った。
故人のキャッシュカードがあって暗証番号がわかるというのが大前提だが、こうした手間を避けるための手段として、「凍結される前に預金を引き出す」という“裏技”が広まっている。
しかし、金融機関に口座名義人の死亡を知られる前に、相続人が預金を引き出して故人の入院費や葬儀代に使うという行為は、法に触れたりはしないのか。