多死社会を迎えた日本では、死後の手続きは誰にも身近なものになりつつある。中部地方の田舎で一人暮らしをしていた実母を3月に亡くし、「遠距離相続」に直面したフリーライター・清水典之氏は、相続手続きに必要な書類の準備、なかでも「親の出生から亡くなるまでつながっている戸籍謄本」の取得に苦労したという。そもそもなぜ、そのような戸籍謄本が必要になるのか。清水氏が専門家に聞いた。
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親の遺産相続で、金融機関の口座の凍結解除や不動産の相続登記などを申請する際に、提出を求められる証明書の1つが、「故人(被相続人)の出生から死亡までつながった戸籍謄本」である。
故人が本籍地を移していなければさほど手間はかからないが、長い人生の過程で本籍地を転々と移していると、かつて本籍地としていた市町村の役場をすべて回り、それぞれで戸籍謄本を取得しなければならない。それは実に大変な作業になる。
現在の本籍地の記載を見て、どこから転出してきたかを確認し、その役場に出向き、また戸籍謄本を取って確認し、転出元の役場へ向かう──。筆者も母が生きた時代と場所をさかのぼるように辿り、中部地方の3か所の役場を回ることとなった。出生が記載されている戸籍謄本にたどり着いたらゴールだ。まるでRPG(ロールプレイングゲーム)である。
戸籍謄本で故人の出生までさかのぼる理由
預金や不動産の相続で、なぜ出生までさかのぼった戸籍謄本が必要になるのか。口座の名義人が死んだことも、故人の配偶者や子供(相続人)が誰かも、そこまで調べなくてもわかるのではないか。
司法書士法人ソレイユの代表司法書士、杉谷範子さんはこう説明する。
「結婚する前に実は離婚していて、前の配偶者との間に子供がいるというケースもありうるからです。相続人が二人だというのなら、本当に二人だけであることを証明するために、出生から死亡までつながった親の戸籍謄本が必要になるのです。
戸籍謄本を収集するのは確かに大変な手間ですが、別の見方をすれば、日本には戸籍があるから、遺言を残さなくても、遺産相続がスムーズにできるのです。戸籍制度のない海外の国だと、遺言がないと手続きがとんでもなく面倒になります」