あなたの街にも「ネパール人」が経営する「インドカレー店」があるのではないか? ライターの室橋裕和氏は全国津々浦々にそうした店があることを疑問に感じていたという。こうした店は「インネパ」の俗称で呼ばれ、ここ20年で激増している。室橋氏はそうした実態を明らかにすべく3年の月日をかけて取材を敢行。3月にその取材をまとめ、『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』(集英社新書)を上梓した室橋氏にインタビューした。【前後編の前編。後編を読む】
「こだわりがないのが、彼らのこだわり」
そもそもなぜ、このテーマを取材し始めたのかについて、室橋氏はこう説明する。
「『インネパ』は多くの人が“あぁ、近所のあの店か”と連想できるほど、すごい勢いで増えています。“どうしてこんなに増えたのか”“どうして同じようなお店ばかりなのか”と思ったのが始まりです。おそらく日本全国で私と同じ疑問を抱いている人がいるのではないでしょうか。ネット上でもこの謎に言及する記事を見かけましたが、真偽のほどがわからないので自分で調べ始めました。僕が住んでいる新大久保は、ネパール人が多く『リトル・カトマンズ』とも呼ばれています。そこで生活するなかで、徐々に彼らのネットワークに入っていくことができた。すると多くの発見があったのです」(以下「」内は室橋氏)
ネパールは海外労働者が約600万人に上る、世界でも有数の“出稼ぎ国家”だ。そうしたネパール人コミュニティの間で「日本でインド料理をやる同胞が増えているらしい」という口コミが約20年前頃から広がり、続々に来日。同じような店を開き始めたことで「インネパ」の店が急増したのだという。「カレー店」を選んだのは開店のハードルの低さも影響している。
「カレー店は必要最低限の日本語の能力と、ある程度の資金があれば比較的開店しやすい。日本で成功したインドカレー店でしばらく修行を積み、その後独立して自分の店を出店するのがセオリーです。修行先のメニューを丸パクリするお店も少なくありません。そのため、どこのカレー店も看板メニューは、日本人好みに味付けされたバターチキンカレー。“こだわりがない”というのが、彼らの“こだわり”です。これは、ネパールにいる家族を養うために“絶対に失敗できない”という気持ちの表われでしょう」