さらに時間が経過し、色々な路面や交通状況を走り抜けていくとEX30の走行感は実に上質だということが分かります。加速感には尖った強烈さはありませんが、自然でシームレスな加速フィールは体や精神に優しく寄り添ってくれ、なんとも心地がよい。さらにFR(後輪駆動)であるため、フロントタイヤは加速などモーターのパワーを路面に伝える役割から解放され、方向転換だけに専念できるため、操作感に雑味が少なくなります。そして前輪の切れ角も大きくなるので、小回りもよくなる。コンパクトなボディという利点が、より輝くことになるのです。ちなみに前後にモーターを1基ずつ置いたツインモーターの4WDモデルも間もなく登場予定です。
そしてもう1点、車重がBEVとしては軽量というところも注目すべきポイントです。重量のあるバッテリーを搭載するBEVは、どうしてもサスペンションが硬めになり、しなやかさが不足するもの。その点、EX30の車両重量は1,790kgとBEVとして軽量の部類に入るため、ドカドカといった重さは希薄。サスペンションもしなやかで、突きあげ感も少なく、上質さの一助になっているのです。付き合うほどに体になじみ、そして気が付くと体の一部のようになっている感覚は、北欧家具にある心も体も穏やかになる心地よさに通じるものかもしれません。
ボルボだから実現できたトータル力の高さ
あくまでも個人的な感想ですが、ボルボのブランドイメージと言えば「クリーン、クレバー、そして頑なさ」です。そんな姿勢は走りだけでなく、EX30のキャビンにいても感じることができます。
内装にはリサイクル素材や再生プラスチック、天然素材などを積極的に採用しています。さらにメーターパネルなどをなくし、ダッシュボードの両端にエアコンの吹き出し口、中央には縦長の12.3インチのセンタースクリーンがあるぐらい。速度やバッテリー残量などの情報はこのセンタースクリーン上部の「ドライバーインフォメーションエリア」から得ることになります。さらにハザードスイッチ、エアコンなどの操作系もセンタースクリーンに集約するなど、見た目だけでなく車内の作りもシンプルに仕上げてあります。とにかく手で操作するダイヤルや物理スイッチなどを探してみても、ウインカーやワイパーを操作するレバーぐらいしか見当たらないのです。その影響かもしれませんが、上下がフラット形状のステアリングが、存在をかなり主張してきます。乗り込んだ瞬間、まさに未来感あふれるインテリアを経験するのですが、それでも違和感はほとんどなく、すんなりとシンプルなインテリアと一体化できます。
そうした室内で過ごしていると、開発・製造から廃棄までのライフサイクルにおいて大幅なCO2削減を目標に掲げ、達成のために着実に歩んでいる“ボルボの本気”を強く感じるのです。
首都高や市街地を走った後、レモンイエローのカラーを纏ったEX30をパーキングエリアに止めます。その佇まいというか、さり気なく、見る者の感覚に寄り添うような穏やかさがある外観には、とても好感が持てます。BEVならではの短い前後のオーバーハングと長いホイールベースという定番デザインが程よくバランスして、このプロポーションを完成させているのですが、どんなシーンにもすんなり溶け込んで見えることは確実です。奇をてらったところのないデザインは、長く付き合っていけそうな仕上がりです。ひょっとするとこのデザインこそ、EX30を購入する大きな理由だろうと感じた瞬間でした。その結果としてシンプルで美しい北欧デザインで内外を仕上げたボルボ車、EX30に乗ることは、クレバーさの証、と言ってもいいでしょう。
それに加え、「安全は独占するものではない」という信念に基づき、3点式シートベルトの特許を世界中に無償で公開してきたボルボが、長年積み上げてきた安全思想が魅力として加わります。「安全はボルボのDNA」としながら車を製造し、世に送り出してきたボルボの頑なさは、日本独特の交通モードによるストレスを軽減してくれるでしょう。
コンパクトなサイズにカーボンニュートラルに配慮した素材、そして高度な安全など日本で乗る理由が時間の経過とともに次々と見つかるEX30。バッテリー容量は69kWh、航続距離は最大で560 kmです。そして価格は559万円で、2024年度のCEV(クリーンエネルギーヴィークル)補助金は45万円(給電機能ありの場合)。これに自治体によるZEV(ゼロエミッションビークル)に対する補助金の上乗せもありますから、納得感は感じられると思います。