首都圏など都市部で過熱する一方の「中学受験」。受験を志す子供は中学受験専門の塾に通うのが一般的だが、親にも子供をサポートする“伴走力”が求められる。「少しでもいい学校に」と望んで子供を叱咤激励するものの、成績は一向に上がらず、それどころか、子供がまったくやる気を見せないことに苛立ちを覚える保護者もいるのではないか。学力中位層(または低位層)の子供を持つ保護者の赤裸々な悩みを、フリーライターの清水典之氏が現役の塾講師にぶつけた。(全5回シリーズの第1回)
【シリーズ全5回】
■お金も時間もかかる中学受験 「偏差値下位の私立中学なら進学する意味はない」の意見を高校受験塾の現役講師はどう考えるか
■中学受験で“勉強から逃げる子”は晩熟タイプかもしれない 偏差値50台の私立中から高校受験で開成に合格する例も少なくない
■「高1でbe動詞がわからない」受け身で過大な量の勉強を続けた結果、中高一貫校の“深海魚”に 中学受験にありがちな「勉強を強制させられるリスク」
■スポーツや習い事をやめて勉強に専念させる価値はあるのか? 現役塾講師が明かす「中学受験最大のデメリット」
■「子供にトラウマを残しそう…」悩ましい中学受験から“撤退”の決断 現役塾講師は期限を重視、撤退後の勉強への向き合い方
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「こんなはずではなかった……」。子供に中学受験させることを選んだ親たちのなかには、そう感じている人が多い。
首都圏模試センターの調べによると、首都圏1都3県で2024年の私立・国立中学受験者数は5万2400人で、受験率は過去最高の18.12%を記録したという。公立の中高一貫校の受験者も含めると、東京、神奈川、千葉、埼玉では小学6年生の4.7人に1人が中学受験をしたことになる。中学受験ブームの過熱とは、“競争の激化”を意味する。
中学受験をする子供は週に4日も5日も塾に通い、夏休みも夏期講習や合宿で朝から晩まで勉強漬けである。しかし、今や中学受験では中学受験専門塾に通うのが当たり前になり、みな同じように勉強しているのだから、偏差値は容易には上がらず、現状維持が精一杯。努力に対する成果が見えず、子も親も疲れ果て、「こんなはずではなかった」と悲鳴にも似た嘆きの言葉が漏れてくる。
ある親は、「ネットには中学受験に関する記事があふれているが、出てくる学校と言えば開成や桜陰、筑駒などのトップ校、塾と言えばSAPIX。中位・下位にいる我が子にはまるで“雲の上の世界”のようで、参考にならない」と不満を口にし、またある親は「偏差値や模試の結果で受かりそうな学校は、今まで聞いたことのなかった学校ばかり。これだけ塾にお金と時間を注ぎ込み、私立中高一貫校の高い学費を6年間払う価値があるのかどうか、判断ができない」と悩む。「当の子供には、まったくやる気がなく、隙あらばサボろうとするので、親子ゲンカが絶えない」といった声もよく聞く。
そんな、いわゆる“ボリュームゾーン”にいる親たちの悩みについて、高校受験向けの塾で講師を務める東田高志氏にアドバイスをしてもらった。中学受験の指導も経験したことがあるという東田氏は、Xのアカウント名「東京高校受験主義」で4.6万人のフォロワーをもち、この5月に『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』を上梓している。小学生とその親を導く現役の中学受験の塾講師ではなかなか言えないような率直な意見は、今後の意志決定の参考になるはずである。