昨年12月に演歌歌手の八代亜紀さんが亡くなられ、今年3月にそのお別れの会が開かれたが、生前に録音された音声をもとにAIで生成された八代さんが、「皆さん、八代亜紀は幸せでした。ありがとうね」と語りかける場面があった。八代さんは自らの意思で、音声を音源データとして残していて、そこから“AI八代亜紀”を作成したという。
AI流行りの昨今は、故人が遺した文章や音声から、AIで故人を生成するというサービスも始まっているが、葬儀の世界で、こうしたデジタル技術が導入されていく背景には何があるのか。
浄土宗正覚寺の僧侶で、一般社団法人良いお寺研究会代表理事を務めるジャーナリストの鵜飼秀徳氏は、こう分析する。
「亡くなった方の遺影を掲げるのは、大昔からの風習に見えますが、写真技術が普及した明治末期以降に出てきたもので、実はそれほど古くありません。白黒の写真がカラーになり、デジタル技術で修正するようになり、最近では空中に投影したり、AIで故人の動画を作成してしゃべらせたりと、どんどん技術が進化しています。古いしきたりに縛られているようで、意外にそうでもなく、新しい形の演出は広がっていきます。
一方で、昨今の葬儀は、首都圏を中心に小規模な家族葬が増えていて、地方の中核都市にも浸透しつつあります。お金をなるべくかけない葬儀が広がると、画一化が進みます。そんななかで、コストを抑えながら、少しでも見栄えがするように、あるいは差別化して個性を出せるようにするために、こうしたデジタル技術を活用する流れが生まれているように思います」
葬儀業界では、簡素化と競争激化が同時に進み、コストをかけないで差別化する技術が求められていると言える。
取材・文/清水典之(フリーライター)