その場合、無駄に毎日を過ごした結果の自業自得だと見捨てることは、人情からできることではないと思いますが、法的にも難しいといえます。というのは、民法では「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているからです。
大病して治療費に困ったお兄さんから援助を求められた場合、ご両親が高齢になって収入がなくなったり死亡したりすればきょうだいが対応せざるを得なくなります。
きょうだいは、自身に生活の余裕がまったくなければ負担を拒否できますが、そうでなければ程度はともかく扶養に応じざるを得ません。どの程度の扶養にするか協議ができなければ「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して」家庭裁判所が定めることになります。お兄さんに対する扶養義務が認められる場合、その対象である生活費には保険料も含まれます。
一方、これらの保険料を支払っておけば、お兄さんは保険治療が受けられ、扶養義務の履行を求められても、少なくとも国民年金の老齢基礎年金の受給年齢(65才)以後は、お兄さんの受け取る年金額の分は扶養が必要な生活費から控除されます。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※女性セブン2024年8月1日号