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日本での「ふつう」の暮らしは「ふつう」ではない…若き日に海外でパスポートを紛失、丸腰で2週間立ちすくんだオバ記者の実感

海外でパスポートを紛失して2週間立ちすくんだ経験

 そこで頭に浮かんだのは40年前のこと。

 最近の若い人は海外旅行をしなくなったというけれど、当時は景気がよかったのよね。OLといわれた女子社員は、短期休みには「ふつう」に香港やバンコクでブランドのバッグを買い漁った。寿退社したら新婚旅行は「ふつう」にヨーロッパだった。

 で、その次に若い女たちの憧れになったのが留学だ。社内恋愛に敗れたり、仕事がイヤになった女子社員はこぞってイタリア留学をしだしたの。なんでそんなことが言えるかというと、当時20代半ばだった私はそのど真ん中にいたのよ。何を思ったのかイタリア語教室に通い出したら、そこは「留学する」と目を輝かせた女たちの巣窟でね。私の周辺でも何人もの独身女性が旅立っていた。「悪いことは言わない。やめた方がいいよ」と何度も言いそうになったわよ。

 というのも、その前年にギリシャ、トルコ、イタリアを巡る旅をしていた私は、イタリアでパスポートを紛失して、晩秋のトリノに丸腰で2週間立ちすくんだ経験があったから。そのとき、日に日に薄くなる財布をのぞきながら、よその国で働くとはどんなことか、イヤというほど考えたんだよね。パスポートのない東洋人を雇ってくれるところはもちろんなく、最後は現地の日本人から10万円をお借りするしかなくなったの。トリノの駅前通りに裸足で座っている物乞いばかり目についたっけ。

 パスポートなしでどうやって日本に帰ろうか。歩けるか。ユーラシア大陸の地図が頭に浮かんでは消えた。あれほど日本という国や日本人である自分を実感したことはなかったと思う。

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