カーライルが掲げる「積極的な出店戦略の実行」も、日本KFCが長年育んできた企業風土を変える可能性がある。日本KFCは国内に約1230店舗を展開するが、その7割以上を占めるフランチャイズ店のオーナーは、地元で林業や建設業、不動産業などを営む地方の名士が多いという。その背景には、同社の設立メンバーで、1984年から日本KFCの社長となった大河原毅氏の“理念”があるという。
「日本KFCの3代目社長だった大河原氏は“腹八分目の経営”を心がけ、地域密着の老舗企業に加盟店になってもらいました。そこには、本業がしっかりしていれば、もしケンタッキーで失敗してもフランチャイズ・オーナーが路頭に迷うような迷惑がかからないだろうとの配慮があった。このことに象徴されるように、日本KFCには短期的な収益を追わず、地に足のついた長期的な事業を目指す伝統的な企業文化があり、単に売り上げ増をめざす積極的な出店戦略はなじみません」
「オリジナルチキン」の味が変わってしまったら…
日本においてケンタッキーはクリスマスやお祝いの日など、ハレの日に食べることも多く、楽しい思い出とともにその味が記憶に刻まれている日本人は少なくないだろう。それゆえ、もしもケンタッキーの味が変わったら、長年「オリジナルチキン」に親しんできた消費者が黙っていないのではないか。
「消費者は正直ですから、“以前のようなケンタッキーの味じゃない”と判断すれば、お店に行かなくなる可能性があります。すると売り上げが落ち、米KFCが陥った悪循環が生じかねません。その時にカーライルが『やはり日本の味は守らないといけない』と方針転換する可能性は大いにあります」
はたしてケンタッキーの「オリジナルチキン」の味は守られるのか。日本KFC広報は鶏肉の供給元である三菱商事との取引について、《これまで同様に引き続き個々の交渉に基づき取引がなされると認識しています》と回答した。また、「ケンタッキーの味」が変わる可能性については、「安全・安心」を約束する取り組みを示した上で、以下のコメントを寄せた。
《これらの素材ヘのこだわりと手づくりの調理法が変わることはございません》
数々の不安の声が聞かれる一方で、日本KFCは「ケンタッキーの味は変わらない」と主張する。日本KFCが大切に守りたいと強く訴える“素材へのこだわりと手づくりの調理法”。そこにはケンタッキーの創業者であるカーネル・サンダース氏と日本のケンタッキーとの知られざる物語があった──。
取材・文/池田道大(フリーライター)、写真提供/日本KFCホールディングス