「安い労働力」からの脱却
こうした状況に対応するには、「戦略的に縮む」しかない。「捨てる事業」は思い切って捨て去り、「残す事業」にリソースを集中することだ。量的成長から質的成長へのシフトである。発想を変えず漫然と経営を続ける企業は生き残れない。
質的成長モデルへの転換を成功に導くには、量的成長へのこだわりと悪弊を断ち切る必要がある。まずは外国人労働者や女性を「安い労働力」として安易に使う発想から脱することだ。
多くの企業は、「人口減少対策」と称して日本人労働者の不足を外国人労働者で穴埋めしようとしているが、その背後には「安い労働力」を確保し続けたいとの思惑がある。女性をパート労働者として雇用するのも同じ発想だ。目的は人件費抑制である。だが、こうした発想では、消費者不足に対応できない。
勤労世代が激減する以上、企業はなるべく人手をかけずに利益をあげることを考えざるを得なくなる。従業員1人あたりの生産性向上を図り、利益を拡大させることが求められるということだ。
それには、従業員個々のスキル向上が欠かせない。国籍や性別、勤務年数にかかわらず能力のある人を積極登用し、力を引き出す必要がある。
女性を“戦力”として活用すれば、国内マーケットの縮小を幾分かは遅らせることにもなる。内閣府は、女性の労働参加は多様性の利益をもたらし、日本の場合はGDP(国内総生産)を15~20%押し上げる可能性があると指摘している。女性の平均給与が男性並みに増加したならば、消費は約13.8兆円増加するとの試算もある。
人手不足対策には、仕事の総量を減らすことも求められる。無駄な業務を排し、機械に任せられるところは省力化することだ。現行の従業員数を維持しようという発想自体が「現状維持バイアス」なのである。
(後編に続く)
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、人口減少戦略議連特別顧問、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。累計100万部突破のベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『世界100年カレンダー』(朝日新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など著書多数。最新刊は『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)。
※週刊ポスト2024年8月9日号