田代尚機のチャイナ・リサーチ

プーチン大統領がロシア国有企業をモスクワから移転させる計画、狙いはアジア経済圏との緊密化か 国際情勢の不安定化も懸念

プーチン大統領が国有企業をモスクワから移転させる計画の狙いは(SPUTNIK/時事通信フォト)

プーチン大統領が国有企業をモスクワから移転させる計画の狙いは(SPUTNIK/時事通信フォト)

 ロシアの経済情勢について、日米欧メディアがポジティブな情報を伝えるケースは少ない。そのためあまり知られていないかもしれないがここ数年、ロシア経済は予想に反して好調のようだ。

 世界銀行が6月11日に発表した最新のデータによれば、ロシアの2022年における実質経済成長率は▲1.2%とマイナス成長に陥ったが、2023年は3.6%と盛り返したと推計している。同じ年の米国は2.5%、ユーロ圏は0.5%、日本は1.9%で、ロシアの成長率はこれらを大きく上回っている。2024年、2025年の成長見通しについては順に2.9%、1.4%で、前回(2月)の見通しと比べると、2024年は1.3ポイント、2025年は0.9ポイント上方修正されている(いずれも、各国通貨ベースの成長率)。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降、米国をはじめEU各国はロシアからのエネルギー資源の輸入を制限したり、エネルギー資源がロシアから輸出されるのを阻害するような措置を採ったりした。ロシアとの銀行取引を制限したり、海外資産を凍結したり、厳しい制裁を加えたこともあり、ロシア経済には大きな下押し圧力が加わった。

 しかし、ロシアは中国、インドをはじめとした非米同盟国との連携を深め、貿易ルートを確保した。グローバルで石油・天然ガスの需給が逼迫、国際価格が急騰したことで、ロシアのエネルギー収入は大きく増加した。

 もっとも、軍事物資生産の急増、軍事行動に伴う人材不足、総供給の不足などからインフレに陥っており、ロシア中央銀行は7月26日、約7か月ぶりに基準金利を16%から18%へと引き上げることを余儀なくされている。決して順風満帆とは言えないが、それでも、戦時下でも国家財政は何とか持ちこたえており、好景気を保っているというのが現状だ。

国有企業の本部をモスクワから地方に移転する計画

 そもそも、ロシア経済は過小評価されている。世界銀行による2023年の購買力平価GDPをみると、ロシアは中国、米国、インドについて第4位であり、日本(第5位)を超えている。この順位は2021年以降、3年連続で変わらない。

 今年秋に行われる米国の大統領選挙について、民主党支持を表明する主力メディアの影響を受けにくい中国のマスコミ報道などをみると、トランプ氏有利は揺るがないとする見方が多い。もし仮にその通りとなれば、ロシアに有利な形でウクライナ問題が処理される可能性も考えられ、生産の回復、復興需要の発生などからロシア経済は更に成長率を高めることになりそうだ。

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