日英露で共同開発している樺太の天然ガス採掘事業「サハリン2」(企業名はサハリン・エナジー・インベストメント)。ロシア政府がそのプロジェクトを事実上“接収”するという大統領令を出したことに、大きな衝撃が広がっている。サハリン2にはロシアの国営ガスプロム(約50%)と日本の三井物産(12.5%)、三菱商事(10.0%)、石油メジャーの一角で英国のシェル(約27.5%)が出資。年間1000万トンのLNG(液化天然ガス)生産量の6割を日本に輸出し、日本のLNG総輸入量の約9%を占める。それが一気に失われる可能性があるのだ。【全3回の第2回。第1回から読む】
三井物産、三菱商事にとってサハリン2は苦労を重ねた“虎の子”のプロジェクトといえる。
事業が動き始めたのはエリツィン政権下の1990年代前半だが、当時のロシア政府は旧ソ連崩壊後の経済混乱で100億ドルとされた事業費を賄うことができなかった。
そこでロシア政府は英国シェル社(当時はロイヤル・ダッチ・シェル)と三井物産、三菱商事にプロジェクトを受け渡し、3社は1994年に共同開発会社を設立。資源の採掘にあたる権利を得た。経済ジャーナリストの有森隆氏が語る。
「しかし、物産と商事の歴代経営陣はロシアを“カントリーリスクが高い国”と見なしており、積極的に事業に参加したわけではない一面もありました」
懸念は的中する。
エリツィン氏の後を継いだプーチン大統領が、世界的なエネルギー需要の高まりを見てサハリン2の権益を取り戻そうと動いたのだ。2006年9月、プーチン大統領はサハリン2に中止命令を出し、開発事業は暗礁に乗り上げた。日英の3社はプーチン大統領の圧力で株式の約50%をガスプロムに売却させられ、経営の主導権を握られたのだ。
今回と似た状況だ。経済ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「この歴史的な事実が今回の大統領令の布石となっているとみていいでしょう。そうした苦難を経てサハリン2は2009年からLNGの出荷を開始し、以来、安定した価格で日本に供給してきた。苦労した商事と物産にとってサハリン2は今や虎の子の権益となった」