豊富なメニューと立地の良さなどの条件が揃い、警察御用達となっていた高尾亭。警察署が移転したこともあり、1990年代前半を境にカツ丼を出前することもなくなっていったというが、その丼の味を記憶に残す人は少なくない。食べていたのは、警察官だけではなかった。
「あるとき『昔、取調室でカツ丼を食べました。まだ店はやっていますか?』という電話がかかってきたことがあります。昔を思い出して食べようとしたのでしょう。顔がわからないので、その方が実際に来店されたかどうかはわかりませんが……。カツ丼のレシピは先代から受け継いだものを一切変えずに作っているので、味は当時のままです。変わったのは豚カツが厚くなったくらいですかね」(同前)
そんな高尾亭のカツ丼は、卵の甘さが豚カツを包みこむ優しい味わい。どこか懐かしいようなほっとする味で、取調室で食べた人の心もほぐしてきたのだろうと思わせた。(了)