救急車で運ばれた母親の腎臓、肝臓が売買されていた
もっとも、物悲しいだけではない。殺伐とした犯罪も発生している。
2018年2月10日夜、安徽省懐遠県に住むある男性が外でもめ事を起こした兄を電話で激しく非難したのだが、精神を病むこの兄は自分の過ちを認めず、逆上し“一家皆殺しにしてやる”とののしり電話を切り、翌日の深夜、男性一家の寝込みを襲い、全員を斧で切りつけた。
その結果、男性とその妻、6歳になる息子は重傷を負い、懐遠県人民病院に運ばれた。母親は瀕死の重傷を負い、救急車で同じ病院に運ばれたが、その後亡くなった。兄は故意殺人罪で禁固14年8か月となったのだが、事件のポイントはその後にある。
2か月の入院を経て退院、直後に公安局に呼ばれ、事件の詳細について説明を求められたのだが、その際、警官から「あなたのお母さんは臓器を病院に売ったそうだが、いくらで売ったのか」と聞かれ、初めてその事実を知った。
一家の入院について責任を持ったのは、父親と妹であったので、詳細について彼らに話を聞くと2月15日深夜、母親の主治医から母親は既に脳死状態で、助かったとしても植物状態であると聞かされた。さらに、母親の臓器を提供すれば、国家から20万元(410万円)の補助金がもらえると説明を受けた。高額な医療費がかかっていることもあり、父親と妹は重傷で治療中であったこの男性に相談することなく、書類にサインしたという。
入金記録を確認すると、送金者は個人名となっており、この点を不審に思った男性は、主治医に頼んで申請書類を見せて貰ったのだが、そこには医師、病院側の印がない。更に調べていくと、国家からの補助金をもらうためには臓器摘出の際、中国赤十字社による立ち合いが必要なのだが、赤十字社にもその記録はない。医師に問い詰めると、媒介者を通じて46万元(943万円)の口止め料らしき資金が送金されてきた。
公安局に一部始終を説明し、医師を訴えようとすると、この医師は「46万元(943万円)支払ったのだが、この男性から200万元(4100万円)の金を出すよう脅された」と逆にこの男性を脅迫罪で訴えたという。医師と大いにもめたのだが、2019年4月に入り、中央から調査員がやってきて厳格な捜査が行われ、医師側の犯罪が明らかになった。