政府は昇進してもさほど昇給しないことが早期退職者の増加要因の1つになっているとも分析しており、処遇改善も進めようとしている。
人事院勧告は2023年度の国家公務員の初任給について大卒、高卒のいずれも1万円超の上乗せを求めた。33年ぶりの大幅増だ。月給に関しても全職員平均で3869円増やし、若手職員への配分を手厚くする。さらに、柔軟な働き方を認めるべく、在宅勤務が中心の職員への手当支給や、「週休3日制」の導入も打ち出した。
優秀な官僚なくして国家運営は立ち行かない
これらの取り組みの効果もあってか、2023年度の秋試験では総合職「教養区分」で前年度比65.9%増の423人が合格した。だが、このうち2026年度に採用となる19歳の合格者が43人と10.2%を占めている。そもそも合格者全員がそのまま国家公務員になるわけでもない。
優秀な学生の「キャリア官僚離れ」に歯止めがかかるかどうかは、もう少し時間が経たなければ評価はできない。
今後も長期にわたって国家公務員試験を取り巻く環境をとらえると、厳しさはさらに増しそうである。日本の出産期の女性人口の減少は「動かし難い未来」であり、今後の出生数は減り続ける見通しだ。それは国家公務員試験の受験対象年齢の人口が減り続けるということでもある。
さすがにキャリア官僚が定員割れする事態は想定しづらいが、優秀な学生のキャリア官僚離れが拡大したならば、採用したいレベルの人材を確保できない省庁が出てくるだろう。
「政治主導」や「官邸主導」といっても、優秀な官僚たちの存在なくして政府や与党の政策立案は進まない。官僚の質の低下が現実のものとなれば、国家運営はダメージを避けられなくなる。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。