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【生きてるうちにお金を使い切る】寿命からの「逆算出費ノート」で毎月の散財可能金額を可視化 資産を取り崩す際は「定率」「定額」を使い分ける

生きてるうちにお金を使い切るには、自分の資産寿命を把握することが肝要(イメージ)

生きてるうちにお金を使い切るには、自分の資産寿命を把握することが肝要(イメージ)

 もし老後資産が尽きてしまったら――そんな不安から節約や運用に精を出すばかりで一向に「使うこと」には意識が向かない。結果、そこそこの貯金を残したまま最期を迎えてしまう。自分の人生のために、もっとお金を使えたはずなのに……そうした後悔を残さないために、生きているうちにお金を使い切る「出費術」を学ぶ。

最長100歳まで資産が持つかを検討

 死ぬまでにお金を使い切るには、自分の資産寿命を把握することが肝要だ。『60代からの資産「使い切り」法』(日経BP 日本経済新聞出版刊)著者でフィンウェル研究所代表の経済アナリスト・野尻哲史氏が語る。

「まず年金と生活費の収支を計算し、現在保有する資産を加味して最長として100歳まで資産が持つかを検討します。100歳を想定しておけば、よほどのことがない限り資金繰りで焦ることはなくなります」

 こうして100歳から逆算した出費ノート(図表参照)を活用し、退職後の主な収入である毎月の年金額と支出を比べていく。

100歳から逆算する出費ノート

100歳から逆算する出費ノート

 支出欄には家賃を含め光熱費や保険料などの固定費と、食費や遊興費など変動費の月額平均をすべて合算する。年金額は、年金受給前であれば毎年送付される「ねんきん定期便」に受け取れる額が記してあるので確認する。

 こうして100歳までの大まかな収支を算出し、それに保有する金融資産を加えることで100歳時点の残高を計算する。

 働いていて労働収入があるなら、今後働き続ける予定年数の総収入も加算し、収支がプラスであればそれだけ使えるお金が増える。

「この試算でプラスになっていれば、基本的にお金が足りなくなる事態は考えにくい。投資や貯蓄に精を出すのではなく、『今より出費を増やす』ことを意識していきましょう」(同前)

 持ち家で住宅ローンが終わった場合を想定しているが、賃貸住まいで家賃が発生しているケースなどもあるだろう。

「お金を使い切るうえで、住居費はできるだけ減らしたい。都内から地方都市に移住すれば半額ほどにできます。重要なのは生活費を落としても生活の質は下げないこと。食費を切り詰める人が多いのですが、それでは老後の人生が寂しくなる。地方都市なら生活水準を変えずに生活費を抑えられます」(同前)

 他にも見直せる固定費として、保険料や通信費が挙げられる。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏が言う。

「子供が独立すれば、生命保険の減額を検討したい。医療費は70歳を過ぎると高額療養費制度の上限額が通常下がります。入院日数も近年は短期化しているので、医療保険を減らす選択肢もあります。また、大手キャリアのスマホであればプランの見直しだけでも月額2000円ほど、格安スマホに変更すれば通信費を月額5000円ほど下げられます」

使い切るための資産取り崩しライフプラン

使い切るための資産取り崩しライフプラン

「率」を意識してお金を引き出すことが重要

 資産寿命を把握したら、肝心の「使い切る計画」だ。前出・野尻氏は現役から退職までを「資産形成期」、退職から80歳までを「取り崩しながら運用する期間」、80歳から100歳を「資産を使うだけの期間」と分けて考えるべきだと話す。

「山登りにたとえると分かりやすい。退職までを資産を形成する登山の時期とすると、それ以降は資産を取り崩す下山の時期です。しかし、下山ルートを誤るとスピードが速まったり、急峻なルートに迷い込んだりして目的地に上手く辿り付けない。取り崩しながら運用する期間に引き出し方を工夫するなどし、理想的な下山を目指すのです」

 風呂内氏もこう話す。

「子供の独立や家のダウンサイジングなどもあり、歳を重ねると消費額が減るという統計もあります。人生100年と想定するなら、高齢になってからでも、人生を豊かにするための大きな買い物をするのも悪くないかもしれません」

 そこで、100歳から逆算して取り崩すプランを決めていくことが必要になる。

「退職したら勤労収入が生活費よりも下回るため、給与から毎月天引きするような積み立投資はできなくなります。その後は、これまで積み立ててきた有価証券の運用を継続することが大切です。

 生活費の不足分を補うために資産を取り崩す必要がある場合には、80歳くらいをめどに、運用しながら資産を取り崩していきます。その際に重要なのが、『率』を意識してお金を引き出すこと。たとえば年間3%の運用益を想定すると、引き出しは残高の4%ずつにすれば無理をせずに資産を使っていくことができます」(野尻氏)

 ただし、この定率引き出しでは資産残高が減るにつれて引き出す額も減る。そこで、65歳から69歳は3%、70歳から74歳は4%、75歳から79歳までは5%というように率を変動させて引き出すことで取り崩す額を一定に保ち、生活費を下げない方法もある。

 一方、80歳から100歳までは資産運用をやめ、現金化した資産の「定額引き出し」が適していると野尻氏。

「80歳時点で保有する資産を20年で割って、毎年その定額を引き出して使い、100歳まで生きたらゼロになるというシンプルな考え方です」

 下山ルートを正しく見極めることができれば、理想のゴールに到達できるはずだ。

【書き込み式】100歳から逆算する出費ノート

100歳から逆算する出費ノート

100歳から逆算する出費ノート

【1】収支のバランスを把握する──退職後の主な収入である年金と支出額を比べる

・年金月額【A万円】-支出額(食費、住居費、遊興費、光熱費、通信費など)【B万円】=【C万円】
*記入例:年金額22万円-支出額25万円=▲3万円

【2】100歳まで家計が金融資産で足りるか計算する──金融資産の寿命を調べる

●100歳までに年金がいくら必要か
・【C万円】×12か月×(100歳-夫婦の平均年齢【D歳】)=【E万円】
*記入例:▲3万円×12か月×(100歳-夫婦の平均年齢65歳)=▲1260万円

●保有する資産で足りるかを計算する
・【E万円】+金融資産(退職金、預貯金、株、保険解約返戻金など)【F万円】=【G万円】
*記入例:▲1260万円+金融資産2000万円=740万円

【3】100歳時点の残高がわかる──100歳までの出費計画を立てやすくなる

・【G万円】+(年収×働く予定年数)【H万円】=【I万円】
*記入例:740万円+合計1000万円=1740万円

●資産が枯渇しない範囲で毎月の支出を増やす
例:1700万円のプラスなら、100歳まで毎月4万2000円支出を増やせる(現在65歳の場合)

※週刊ポスト2024年9月13日号

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