「ゼロで死ぬ」「貯蓄5000万円の夫婦が財政破綻した理由」ほか、テレビやネットでは老後の資金繰りに関するセンセーショナルなキャッチコピーが躍る。しかし「そうは言われても実のところいくら必要なのか、さっぱりわからない」という人も多いだろう。大切なことは、あなたが「老後をどう生きたいか」を見極めることだろう。本当に必要な老後資金はいくらなのか──。
70代の平均貯蓄額は1905万円
「10年前に義父が先立ってからずっと都内にひとり、小さなアパートに住んでいた義母が、この8月に87才で亡くなりました」
切なげな表情を浮かべながら振り返るのは、埼玉県在住の女性・Aさん(58才)だ。
「死因は脳梗塞。倒れてからあっという間に帰らぬ人になりました。生前、『せっかくお元気なんだから、旅行や映画に行っていらしたら?』と言っても『もったいないからいいのよ』の一点ばりで、近所の図書館やデイサービスに行くほかは家でテレビを見ていることがほとんど。
だけど遺品整理をしていたら、1800万円が残された通帳が見つかったんです。“何才まで生きるかわからないから切り詰めないと”という思いから、お金を使うことができなかったのかと、なんだか寂しくなりました」
「老後資金2000万円問題」が令和の始まりとともに浮上し、4年が過ぎたいまも老後資金に不安を抱く人は少なくない。
高齢者の平均貯蓄額(金融広報中央委員会調べ)は、60代で1819万円、70代で1905万円となっており、いかに人生100年時代において「貯蓄」を重要視する人が多いかが見て取れる。
しかし、プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんは「必ずしも高額の貯金は必要ない」と断言する。
「総務省の家計調査によると、夫婦高齢者無職世帯であったとしても毎月赤字になるのは2万2270円のみ。仮にその状態が65才から90才まで続くとすれば、総計は668万1000円になります。例えば、ここから年収300万円未満世帯の貯蓄額の中央値である370万円を引いても、不足額は300万円ほどで、2000万円とは大きな隔たりがあります」