ウォルズ候補は“地味で無難”
それに対し、民主党のハリス氏が副大統領候補に指名したミネソタ州のティム・ウォルズ知事は白人男性だから、まずその点で非白人女性(父がジャマイカ出身、母がインド出身)のハリス氏を補完できる。
ウォルズ氏は中西部のネブラスカ州出身。教師を経て陸軍州兵を24年間務めた。その後、教職に復帰し、2007年にミネソタ州下院議員、2019年に同州知事になったが、国内での知名度は低い。ハリス氏がウォルズ氏を選んだのは、中西部の接戦州出身で政治経験が豊富だからだという。
副大統領候補の選考では、ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事やアリゾナ州のマーク・ケリー上院議員らが最終段階まで残っていたと報じられている。
シャピロ氏はユダヤ系で支持基盤は強力だが、ハリス氏の夫もユダヤ系のため、重なることを避けたのだろう。また、イスラエルのパレスチナに対する武力攻撃が続く中東情勢を考慮して除外した可能性もある。
ケリー氏は海軍パイロット出身の元宇宙飛行士で全米的な知名度は抜群だが、それゆえ彼をランニングメイトにするとハリス氏の存在感が薄くなりかねないし、民主党と共和党が拮抗している上院の議席が減って議会運営がいっそう難しくなるので、指名しなかったのだろう。私はケリー氏こそ理想的な副大統領候補であり、有力な次期大統領候補でもあったと思うが、ウォルズ氏は地味で“人畜無害”だから、落としどころとしては無難な人選と言える。
大統領候補がバイデン氏とトランプ氏の時は、どちらも嫌いな「ダブルヘイター」と呼ばれる有権者が20~30%いたとされるが、ハリス氏とウォルズ氏のチケットなら、その票も取り込めるだろう。となれば、ハリス氏がトランプ氏に勝利してアメリカ初の女性大統領になる可能性が高いのではないか。“自分ファースト”の時代でも支持層を広げる副大統領候補選びが勝敗を決すると言えそうだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年9月13日号