米大統領選を今秋に控える中、それに先んじてイギリスとフランスでは解散・総選挙が行われ、政権交代・政権崩壊が相次いだ。こうした各国の選挙を見て、経営コンサルタントの大前研一氏は「イデオロギーで葛藤する時代は完全に終わった」と語る。これまでの選挙とどう変化しているのか、大前氏が解説する。
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アメリカ大統領選が、風雲急を告げている。周知の通り、民主党のジョー・バイデン大統領が撤退を表明してカマラ・ハリス副大統領が後任候補になり、世論調査で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領と支持率が拮抗しているのだ。
国の趨勢が選挙で反転・リセットされる事態に直面しているのはアメリカだけではない。世界的な選挙イヤーである今年は、各国で大番狂わせが起きている。7月にはヨーロッパで政権交代や政権崩壊が相次いだ。
まずイギリスでは、保守党のリシ・スナク首相が下院の解散・総選挙に打って出て惨敗し、14年ぶりの政権交代が起きて労働党のキア・スターマー党首が新首相に就任した。
保守党政権が崩壊したのは「身から出た錆」である。すべての問題の根源は2020年末にボリス・ジョンソン首相が実行したブレグジット(EU離脱)だ。
その結果、イギリスにはEU諸国から安い農林水産物などが入ってこなくなり、物価が急激に上昇した。さらに、外国人労働者も入国が難しくなり、様々な業界で大幅な人手不足に陥った。
とりわけ国民が物価高とともに不満を募らせているのは医療システムの破綻だ。イギリスには医療費が無料になる国民保健サービス(NHS)があるものの、医師と看護師の不足によって診療の待ち時間が6時間、手術の予約は半年以上も先、などと報じられている。
物価高と医療システムの破綻が国民の生活を直撃しているのに、スナク首相は無策で、この問題を解決できなかった。だから保守党は惨敗したのである。