数年後に始まる「医師余り」
こうした数字を見れば、「即座に医師不足を解消すべき」となる。事実、地方自治体の首長などは政府に対し医師不足解消を要望している。
だが、実際には「不足」ではなく、数年後に「医師余り」へと転じる。「偏在」が一部地域に「不足」を生み出しているのである。
厚労省の推計によれば、医学部入学定員を2020年度の9330人で維持し、働き方改革を踏まえて「医師の労働時間を週60時間程度に制限」した場合、2023年に医学部に入学した人が医師になる2029年には需給バランスが均衡するというのだ。
すなわち、翌2030年以降は「患者不足」に陥るということである。
人口減少が進む中で、「無医地区」の拡大を抑えながら、「患者不足」にならないためにはどうすべきか──中長期的な視点に立った議論が求められる。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。