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《福岡伸一教授が教える「利他的な脳」》最新研究で明らかになる遺伝子に備わった「人助け」をするしくみ「積極的に他者を助けると、生物として強く、幸福に生きられる」

遺伝子は“利己的”なのか、“利他的”なのか(イメージ)

遺伝子は“利己的”なのか、“利他的”なのか(イメージ)

人間の利他性は環境で変化する

 このように自然界に目を向ければ、生物繁栄の要が“利己より利他”であることは一目瞭然だと言えるだろう。福岡さんは、脳が発達した人間の利他性はほかの生物よりもさらに複雑であると話す。

「例えば、線路に落ちた他人を自らの危険を顧みずとっさに助けるという行動は、利己的遺伝子論では説明がつきません。しかし身を挺して他者を助けようとする人のエピソードは世界中にある」

 2001年にJR山手線新大久保駅で転落した乗客を救出しようとした韓国人と日本人の男性2名が、侵入してきた電車にひかれて犠牲となった事故を覚えている人も多いだろう。

「世界を覆った新型コロナウイルスを克服できたのも、強力な薬の開発や追跡調査による撲滅ではなく、自分の行動を制御して相手と距離を取り、ウイルスの蔓延を防ごうとした利他性の賜物だと言えるでしょう。

 このように人間が他者のために行動できるのは、ほかの生物と同様、遺伝子レベルで利他性が組み込まれていることに加え、脳に備わった特殊な回路にも理由がある。利他性を発揮した際の人間の脳の状態を徹底的に調査した結果、他者と自分を重ね合わせ、肯定的にとらえる働きがあることが判明しました」

 つまり私たちが利他性を発揮すればするほど、他者とのコミュニケーションが円滑になり、お互いに恩恵を受けられるのだ。

「ただし、利他性を発揮するための脳の回路は気温の上昇や水不足といった危機的状況下に置かれたり、利己的な考えを持つ仲間とつるむことによって低下することもわかっています。

 しかし、18世紀の産業革命以降、地球温暖化が進み平均気温は上がり続けています。これはわれわれ人間が資源を収奪する化石燃料を大量に使ったり、土地開発によって森林資源を利用したりと環境やほかの生物に対して利他性を欠いたことが原因です。

 地球環境の未来のためにも、また自分自身がその恩恵を受けるためにも利他性が発揮できるよう、脳の回路を活性化させる必要があると言えます」

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