中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

「怖い」「リアルすぎる」ライオン新CMだけじゃない、過去に放送中止・修正を余儀なくされたCMに足りなかった配慮

鬼がティッシュを投げるCMが「怖い」

 2013年に放送されたNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』では、その2年前に起こった東日本大震災をどのように描くかが注目されましたが、被災者や津波の映像がフラッシュバックしないよう、震災の描写は模型を破壊する映像だけに留めました。このような配慮が「自ら選んで視聴している」ドラマにも求められるだけに、受動的に目に入ってくるCMには、さらに慎重な配慮が求められるです。今回のライオンのCMに限らず、放送中止や修正を余儀なくされたCMは、そうした配慮が足りなかった、といえるのではないでしょうか。

 あと、恐怖CMもお蔵入りになることがあります。1985年に放送された、ティッシュペーパー「クリネックス」のCMがその一つ。スローな店舗のアンニュイな英語の歌が流れ、背景は赤。松坂慶子と小鬼がティッシュを投げ、空中に舞わせるCMは当時から「恐い」と言われました。背景の赤が血を連想させ、セリフも何もなくただ小鬼が(別バージョンでは松坂が)がティッシュを投げ、松坂は小鬼の顔に自身の顔を近づける。

 クリネックスが軽く、肌触りが良いことをアピールしたかったのかもしれませんが、そこに鬼が登場したり、背景を赤くしたりする必要があったのか、疑問が沸き上がりました。ピサの斜塔から鉄球を落とすガリレオ・ガリレイのように、松坂とフワフワなヒヨコの着ぐるみを着た少年が2階のベランダからクリネックスを落とし、「宙を舞うこの軽さと最高の肌触り!」などと明るくやっても成立したのでは、とあれから39年経った今、思うのでした。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

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