9月に入っても不安定な展開が続く日本の株式市場。その発端となったのは、8月の日経平均株価の大暴落だ。米雇用統計や日銀の利上げを受けて、投資家たちが“狼狽売り”に走ったと言われているが、その根本的な原因はどこにあるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が日本株“ジェットコースター相場”の本質を読み解く。
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8月の日経平均株価は過去最大の下げ幅・上げ幅を記録して乱高下する“ジェットコースター相場”となった。そのきっかけは、アメリカの7月の雇用統計だ。予想を大幅に下回って失業率も悪化したため、不安に駆られたニューヨーク市場の株価が急落し、それを受けて東京市場も「売りが売りを呼ぶ」パニック状態に陥ったのである。
円相場の急騰も株安を誘った。日本銀行が7月末に政策金利を0.1%から0.25%程度に引き上げると決めて植田和男総裁が利上げの継続を示唆し、それと同時にアメリカ経済に対する先行き懸念でドルが売り込まれて円高が進んだ。この複合的な要因により、日本株を保有していた投資家たちが“狼狽売り”に走ったと報じられている。
だが、私の見方は違う。今回の大暴落の根本的な原因は、安倍晋三元首相と黒田東彦前日銀総裁による「アベクロ」=「アベノミクス」+「異次元金融緩和」の後遺症にほかならない。
アベノミクスの「第1の矢」である異次元金融緩和はデフレ経済からの脱却を目指し、2013年4月から10年以上も政策金利を0~マイナス0.1%にしてきた。その結果、低金利の円を借りて高金利のドルなどで運用して利益を得ようとする「円キャリー」がブームになった。
さらに、2020年にアメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本株は過小評価されていると指摘し、インデックス(市場の全体的な動きを示す指数)として日本の商社株を購入して以降、低金利の円を借りて配当利回りが高い日本の優良株に投資する「円・円キャリー」が始まった。金利が1%以下の円を借りて配当利回りが3~5%の日本株で運用すれば、確実かつ安定的に利益を得ることができるからだ。