当時は黒田日銀が金利を上げないとわかっていたし、それによって円安も進行するから、日本株の多くが割安とみなされた。しかも、日銀がETF(上場投資信託)を大量に買い入れて株価を下支えしていたので、投資家たちは安心して日本株を買い進めることができた。だから円安・株高になったのである。
その流れが植田日銀になって反転した。海外の投資家たちはきちんと個々の日本企業を評価して株を買っていたわけではなく、「円・円キャリー」で簡単に儲けられたから目をつぶって日本株に投資していた。このため、前述したように日銀が政策金利を引き上げ、アメリカ経済に対する先行き懸念が生じたことが円高と日本株の“狼狽売り”につながったのである。
しかし、株価が暴落した直後に日銀の内田眞一副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要があると考えている」と述べて火消しを図った。それで円相場も日本株も落ち着きを取り戻したのである。
ようやく日本の金融市場は、異常だったアベクロ後遺症から脱却して正常化しつつあると言えるだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年9月20・27日号