「玉鷲」はなぜこんなに多い?
各力士は初土俵を踏むと「持ち給金3円」が与えられ、本場所での成績に応じて加算されていく。勝ち越し1勝につき0.5円が加算され、8勝7敗ならプラス0.5円、9勝6敗ならプラス1.5円といった具合に増えていく。幕下以下では積み上がるだけで実際の支給はないが、十両に昇進すると「持ち給金の4000倍」の額が力士褒賞金として本場所ごとに支払われる。
昨年9月場所で新十両となった大の里は、その時点で積み上げた持ち給金は6円だったが、関取は番付ごとに持ち給金の“最低保証額”がある。十両なら40円、幕内なら60円。スピード出世の力士は、新十両や新入幕で一気に収入が増えるのだ。
これにより大の里の持ち給金も一気に40円にジャンプアップ。本場所ごとにその4000倍にあたる16万円が支払われるようになった。その後も勝ち星を重ねるなどして今場所を持ち給金103円(支給額41.2万円)で迎えている。月給と力士褒賞金を足し合わせた年収概算は2767.2万円に達した。
(以下、図表で「全幕内力士の月給や年収、懸賞金一覧」を紹介)
「さらに今年の大の里は5月場所の優勝(賞金1000万円)と三賞(賞金200万円)も6つ獲っている」(協会関係者)ので、手にした賞金は計2200万円。加えて「懸賞金」もある。取組前の土俵をグルグルと回る懸賞旗は1本につき7万円。協会が手数料1万円を取り、力士の納税のための預かり金が3万円のため、力士の手取りは1本3万円だ。
「懸賞は横綱や大関戦に集中するため上位の獲得本数が多いが、大の里のような人気力士へのご指名も多くなる」(同前)
先場所までに大の里が獲得した懸賞本数は450本(手取り1350万円)。琴櫻の935本、照ノ富士の826本、豊昇龍の529本に続く4番目の数字となる。
「すべて合わせると今年の収入はすでに約5200万円に達する計算で、ここから大関、横綱への昇進を果たせば月給も褒賞金も、懸賞の本数も増え、実入りはさらに右肩上がりになる」(同前)
大の里のように勝ち続けて収入を増やす力士がいる一方、持ち給金には「負け越しても減額がない」という特徴がある。キャリアが長いほど収入は大きくなりやすいのだ。別掲の年収概算を見ると、大関から陥落した貴景勝、霧島は、同じ関脇でも大の里よりも額が大きい。小結の大栄翔も大の里より多い。持ち給金に限って見れば、幕内5場所目の大の里の103円は幕内で17番目。400円超の照ノ富士、200円超の貴景勝、御嶽海、玉鷲、高安に遠く及ばない。
「大関に昇進すれば持ち給金は100円に引き上げられるし、優勝経験がある実力者が多いため元大関は額が大きくなる。200円超で唯一大関経験がないのが幕内通算90場所目の“鉄人”こと玉鷲。持ち給金が30円プラスとなる幕内優勝を2回、同10円加算となる金星を7個あげたことも大きい。それだけで130円の加算で、引退まで年収が毎年300万円以上プラスされる計算になる」(若手親方)
年収概算のトップは照ノ富士。横綱は休場しても番付が下がらず、「この9月も、月給300万円と褒賞金193万円が支払われる」(同前)のだ。照ノ富士の年収概算5000万円超は他のプロスポーツと比べれば低くも見えるが、「年寄株を取得して引退後も協会に残れば、65歳定年(70歳まで再雇用)の“終身雇用”になる」(同前)ことも踏まえた評価が必要だろう。
元大関たちが引退しない理由
持ち給金のような給与体系があるのは、成績と番付の上下が符合しないケースがあるからだ。
「原則として1つ勝ち越せば番付は1枚上がるが、上が詰まっているとそうならない。先場所も平戸海が小結で10勝5敗だったのに、3関脇が勝ち越して貴景勝が大関から落ちたために4関脇となり、席が空かなくて小結に据え置かれた。そうした場合に不満が出ないよう、1つ勝ち越すと持ち給金が0.5円足される」(ベテラン記者)
ただ、減額されないことの弊害もありそうだ。
「平幕の給料は同じで負け越しても褒賞金は減らないので、下位で大きく勝ち越した後に上位で大きく負け越すなどして番付の上下が激しい“エレベーター力士”ほど収入が増えやすい。
大関陥落後に平幕で長く相撲を取るベテランが増えたのも、優勝経験や金星の実績がずっと反映される褒賞金があるからという側面がある。幕下に落ちると褒賞金がなくなり、そこでようやく引退する。給与システムにより、“引き際の潔さ”がなくなっているとも言える」(同前)
世代交代の最中にあるように見える角界だが、“給金番付”からは、それがなかなか進まない理由も垣間見えてくる。
※週刊ポスト2024年10月4日号