田代尚機のチャイナ・リサーチ

【世界初の「三つ折りスマホ」は事前予約台数685万台】通信機器から半導体・OS・新エネルギー自動車まで幅広く手を広げるファーウェイのビジネス戦略

三つ折りの画面を広げるとタブレット端末のようにも使える(Getty Images)

三つ折りの画面を広げるとタブレット端末のようにも使える(Getty Images)

無謀にみえる全面展開の経営を続けながら成長を続ける

 華為技術の経営をアップルと比べてみると、極めて対照的だ。アップルの収益構造をみると、iPhoneを中心とした比較的少ないハード製品とユーザー向けに提供される各種サービスから成り立っている。無駄な経営リスクを排除する中で、冒険をせず、安定感のある経営を続けている。

 一方、華為技術は通信機器の製造を出発点に、ハードとしてのスマホや、その部品となる半導体、それを作動させるOS、さらに、スマホビジネスの拡張として、ハードとしての新エネルギー自動車、ソフトとしての自動運転技術、AI開発など、四方八方に手を広げている。

 米国政府はトランプ政権時代の2018年以降、国家安全保障上の脅威になるとして、同社の5Gネットワーク設備の輸入制限、半導体、技術の輸出制限などを課した。OSについては、それまで依存していたアンドロイドの使用を制限、同社は独自開発を強いられている。こうした厳しい外圧を跳ね返して生き残り、無謀にみえる全面展開の経営を続けながら、空中分解することなく、なお成長を続けている。なぜ、このような経営が可能なのだろうか。

 2023年における中国の携帯電話契約者数は18億744万人で第1位(ITU)。米国はインドに続き、第3位だが3億8618万人でしかない。日本は7位で2億1880万人、韓国は22位で8389万人だ。米国の4.7倍もの契約者数のいる同一の言語、法律の下で統一された市場を背後に持つ中国企業はそれだけで、大きなアドバンテージを持っている。

 2023年における中国の一人当たり購買力平価GDPは77位で、日本の45%、韓国の41%、台湾の32%、米国の29%に過ぎない(IMF)。とはいえ、例えば2022年における北京の一人当たり名目GDPは甘粛省の4.2倍ある(中国統計年鑑2023)。地域格差の大きさを考えれば、中産階級消費者の絶対数は日米欧に引けを取らない。

 いわゆる人口の多さ、高成長に由来する優位性に加え、当局による競争阻害要因の徹底排除、資金調達面での優遇措置、技術開発、市場開拓に繋がる補助金政策などがうまく機能することで、市場に大きな活力が生まれている。

 同業他社では小米集団などもアグレッシブに事業規模、範囲を広げており、急成長を続けている。スマホに限らず、新エネルギーでも、新エネルギー自動車でも、AIでも、特異な市場で勝ち残った中国企業を相手にするのは大変だ。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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