トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどが2020年代後半にも実用化を目論んでいる「全固体電池」。経済産業省も日本の自動車メーカーによる世界初の実用化を後押しすべく設備投資支援を表明しているが、中国企業の躍進は凄まじく、量産化では先を越されかねない状況となっている。
テスラ、BYD、華為技術(ファーウェイ)などを取引先に持ち、大手電池メーカーの一角を占める鵬輝能源は8月28日、オンラインによる製品技術発表会を開催。エネルギー密度にして280Wh/kg、充電、放電を600回繰り返しても性能の90%以上を維持できる全固体電池の開発に成功したと発表した。現在の全固体電池開発では、ポリマー、硫黄/ハロゲン化物、酸化物を主成分とする3つの方式が主流となっているが、同社は酸化物方式を採用することで製造技術上の課題を克服、本質的に安全な電池を低コストで生産することに成功したと強調している。2025年には最終試験を経て小規模な生産を開始し、2026年には本格的な生産ラインを建設、量産を始めるという。
現在、電気自動車用に使われているリチウム電池は正極、負極とそれらを分けるセパレーター、その間を埋める電解液で構成されているが、2つの弱点がある。一つは可燃性のガソリンを大量に積んだ自動車と比べればまだ安全なのかもしれないが、それでも故障した場合発火するリスクが高いという点、もう一つはエネルギー密度を高めることが難しいという点だ。液体を利用しているために生じる弱点なのだが、安全性を確保するためには短時間で充電することが難しいことも、課題となっている。
エネルギー密度について、少し補足しておくと、現在広く使用されている液体が使われるリチウム電池では技術的には350Wh/kgあたりまで高めることができそうだが、それ以上は難しいようだ。一方、全固体電池ではこの限界がずっと高く、500Wh/kgを超えるとみられている。
高エネルギー密度の電池を続々と開発
中国マスコミの記事(澎湃新聞、8月28日)によると、江西カン鋒リチウムでは800回の充電放電が可能な420Wh/kg、300回弱可能な500Wh/kgの全固定電池の開発に成功しているという。コアとなる材料である固体電解質に関しては硫黄/ハロゲン化物、酸化物の2方式に焦点を当てているが、後者については1000トンの生産能力がある。2022年には半固体電池(従来型は25%を液体が占めるが半固体型は5~10%)の商品化に成功しており、東風汽車に搭載されている。2023年には海外の製品にも搭載されているそうだ。
その他の主力メーカーの開発状況をまとめておくと、最大手の寧徳時代は2023年4月、半固体電池ではあるが、エネルギー密度500Wh/kgの新製品を開発したと発表しており、“空飛ぶ自動車”にも利用可能だとしている。
浮能科技も半固体電池ではあるがエネルギー密度330Wh/kgを達成している。この製品は既に量産されており、東風汽車グループ傘下でハイクラスの新エネルギー自動車を生産する嵐図汽車の主力車種に搭載されている。
中国科学院物理研究所の固体電池における産学研究インキュベーション企業として誕生した北京衛藍能源科技も半固体電池であるがエネルギー密度360Wh/kgの製品を開発しており、既に蔚来集団に販売している。