多くの識者が想定するのも、そうした下町エリアを流れる荒川の氾濫だ。
東京都交通局は、荒川右岸21kmが破堤するシミュレーションを2023年に公表した。それによると、地上の浸水域は大手町、丸の内、有楽町といった都心部に達する一方、地下に流入した水は地下鉄ネットワークを通じて地上の浸水範囲よりも広範囲に広がり、都営地下鉄のトンネル内浸水延長は約43kmに及ぶ。
なかでも土屋さんが「全駅水没」を危惧するのは都営大江戸線だ。
「大江戸線は地層の最も深いところに線路があり、すべての地下鉄路線とつながっています。水は上から下へ流れるため、洪水や豪雨でどこかの駅が浸水すると、どの路線であっても大江戸線に水が流れ込むことになる。そのため地下鉄の“底”にある大江戸線がまず水没し、その後、上部にある路線に徐々に水が上昇していきます」
全駅が水底に沈みかねない大江戸線のなかで最も大きな被害が予想されるのが六本木駅だ。
「大江戸線の六本木駅は東京でいちばん深く、地下40m以上です。豪雨時に水が流れ込むと階段やエスカレーター、エレベーターが水没し、構内にいる人が助かるためには完全に水没する前に上方に逃げなくてはなりません。
しかし、停電して非常用電源がぼんやりとあたりを照らすなかで安全に避難を行うのは極めて難しく、慌てた人々が上方に避難しようと駆け出すと、将棋倒しなどの人災が起きるリスクがあります」(土屋さん・以下同)