「有事の際にも地下は安全」と思われてきたが、本当にそうだろうか──。9月21日、いまだに能登半島地震の傷痕が残る石川県を豪雨が襲った。死者のうち2人は「中屋トンネル」の復旧工事をしていた男性で、周辺で発生した土砂崩れにのみ込まれたという。
神奈川県相模原市を1時間に33mmの豪雨が襲った同月19日には、マンホールに入って下水道の工事をしていた作業員2人が流れ込んできた雨水に流され、行方不明になった。2人が心肺停止状態で発見されたのは3日後。現場から約6km離れた相模川に浮かんでいると119番通報された。
暗く、閉ざされた空間に、想像もしないスピードで水が大量に流れ込んでくる──決して特殊な事例ではない。実はわれわれ一般市民の周囲にも似たような状況は多くある。
8月21日、1時間に約100mmのゲリラ豪雨が東京都心を直撃。特に甚大な被害に見舞われたのは地下鉄の駅であり、東京メトロ南北線と有楽町線が乗り入れる市ケ谷駅の6番出入り口から大量の雨水が流れ込み、駅構内が水浸しに。東京メトロの駅構内が浸水するのは20年ぶりで、改札付近では乗客の膝の高さまで水が達した。
地震も日本列島を襲う。8月8日には、宮崎県東部沖合の日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の巨大地震が発生し、気象庁は史上初めて南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」を発表。1週間以内に巨大地震が発生する確率が0.1%から0.5%に上昇したという内容で、お盆を控えた日本中は緊張感に包まれた。
秋が深まるこれからの季節、台風シーズンの本格化で豪雨のリスクが増すことに加え、地震大国の日本ではいつ巨大地震が起きてもおかしくない。
増大する雨量に整備水準が追いつかない
綱渡りの状況で懸念されるのがゲリラ豪雨によって浮き彫りになった災害時における「地下」の危険性だ。元都庁の土木専門家で、公益財団法人リバーフロント研究所審議役の土屋信行さんは不安を隠せない。
「地下を開発する都市のほとんどは1時間に50mmほどの豪雨を想定して安全整備を進めてきました。しかし、現在は1時間に100mmを超す未経験の雨量を記録する時代になり、これまでの整備水準が追いつきません。もはや日本の地下空間は安全とはいいきれない未体験ゾーンに突入しました」
災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんが続ける。
「自然災害時の地下鉄や地下街を管理する予算の規模は自治体によって異なりますが、被害が起きてから対策を講じる自治体がほとんどで、予算の少ない地方都市ほど災害リスクが高い。
地震についても『地下は安全』とされてきましたが、揺れだけでなくそれに伴う火災や停電などさまざまな危険があることを考えれば、地震発生時に対応を誤ると地下は一気に危険な空間になり、命を落とす可能性が大きくなります」
異常気象が増え、これまでに経験したことのない豪雨や、今後30年以内に高確率で発生が予想される巨大地震が起きたら、地下鉄や地下街では何が起きるのか。そしてそのとき、そこにいる人間はどう行動すべきなのか。