それでももうこの時には世界の経済は回っており、いわば「慣性の法則」が働いたとでも言うか、「みんながドルを信用しているから自分も信用する」といったトートロジーによって金融システムが保たれることになります。この事件は、当時のアメリカ大統領名を付けて「ニクソンショック」と呼ばれています。
裏付けのないお金であっても、世界の金融システムが何となく回ることが確認されたこの時、お金は単独で価値を持つようになったのです。要はゴールドという親から離れたお金の独り立ちですね。
2年後の1973年には現行の変動相場制となるわけですが、ここからお金の中における、ドルの相対的価値の下落が始まります。ドル円に限らず、世界の主要通貨とドルの長期的な価値の変遷は、1973年以降、約50年間は「ドル価値下落の歴史」なのです。
低利の円とスイスフランが世界経済を支えている
「そうは言っても、昨今は強烈な円安ドル高じゃないか」という声が聞こえてきそうです。たしかに本稿執筆時点の為替は1ドル145円(2024年8月21日)と、直近のトレンドから円安に振れていますが、これは何も「ドルが強いから」とか「円が弱いから」ということではありません。「日米に金利差があるから」です。
近年の世界経済は強烈なインフレに見舞われ、とりわけアメリカにおいては2022年6月には9.1%のインフレとなるなど、火消しのために順次、金利を上げてきました。金利が上がれば景気を冷やす、ひいてはインフレを抑制する効果があるからです。