かつては駅の改札口に「切符切り」がいて、デパートには扉を開閉し各階を案内する「エレベーターボーイ」や「エレベーターガール」がいた。電話は「電話交換手」がつないでいたが、これらは現在、無人で機能している。そうなると、お金さえあれば「働かなくてもよい社会」が生まれてくるのだろうか。その時、議論の遡上にのぼるのが「ベーシックインカム」だ。不動産コンサルタント・長嶋修氏の新刊『グレートリセット後の世界をどう生きるか』(小学館新書)から、ベーシックインカムが導入された社会について考察する。
ベーシックインカムが導入されたらどうなるか
もし働かなくても一定の収入が得られる「ベーシックインカム」といった制度が導入されたらどうなるでしょうか? もちろんその額にもよりますよね。どの程度のインカムがあれば働かなくていいでしょうか? 昨今の物価水準も考慮すると、例えば月7万円くらいでは厳しいですよね。月13万円だとどうでしょう。家賃の安めのところに住み、水道光熱費や食費を削れば何とか、というところでしょうか。月20万円なら、ぜいたくはできませんが生きていけるはずです。
ところでこれは「一人あたり」の金額ですから、2人暮らしなら世帯収入は2倍。3人暮らしなら3倍と、そのスケールメリットが働きます。したがって、血のつながった家族でなくても、より効率のよい暮らしを目指して何人かで共同生活をするなど、シェアハウスのようなものが今より普及するかもしれません。
さてこのような話をすると「そのベーシックインカムとやらの財源はどうするのだ」といった声が聞こえてきそうですが、結論を申し上げれば、ゼンゼン心配ありません。
そもそも今私たちが使っているお金は、1971年のニクソンショックでゴールドとの紐づけがなくなって以降、そもそも何の裏付けもありません。その裏付けのないお金で、世の中は回っているわけです。「財源」という単語そのものが空虚で、そこには何の意味もないのです。
これまで通りの教科書的なアタマで考えると「増税するか、経済成長するしかない」となりますが、このような考え方自体がある意味ナンセンスだということです。現行の金融システムはその設計段階から根本的な欠陥を抱えるものであり、マネーは無から生み出されています。これはよいとか悪いとかいう話ではなく、「これまではこういうルールでやってきた」という、ただそれだけの話です。「モノポリー」や「人生ゲーム」や「すごろく」といったボードゲーム同様、マネーのルールがそうなっていたというだけの話であり、このルールをひっくり返して、新しい金融システムでは新しいゲーム盤に替えてリスタートするのです。