医療技術の進歩とともに、がんは「治る病気」になってきた。だからこそ早期発見・治療が重要になるが、がんの種類によっては「必要のない」検査や手術で、医療費をむやみに増やしてしまうケースもある。
その一つが前立腺がんだ。日本人男性の「部位別罹患者数」第1位で、60代以上がその9割を占めるが、元国立がん研究センター中央病院の研究員で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう指摘する。
「前立腺にがん細胞が発見されたからといって、それが必ずしも進行性のがんになるとは限りません。現代医学では、前立腺がんが進行した場合のみ、手術や放射線治療などの具体的治療に移ることになっています。検査で発覚しても安易に手術を決めるべきではありません」
(以下、図表で「見直しを検討したいがん治療・検査」を紹介)
前立腺がんの手術にかかる医療費の総額は、3割負担で45万円程度が一般的だ。近年は、医療ロボット「ダヴィンチ」手術の普及により、術後の排尿障害や性機能の低下などの副作用は軽くなったとされるが、リスクがゼロになったわけではない。
「医師に手術を提案されたら、セカンドオピニオンでほかの医師の意見を聞くことが重要です。その場合、前立腺がんの治療で利益が生じない小さな病院やかかりつけ医に相談するのも手です」(同前)
前立腺、大腸、肺に次いで日本人男性の罹患者数第4位の胃がんを心配する人は多く、検査を過剰に行なっている可能性があるという。
「50歳を過ぎたら一度は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受けたほうがいいでしょう。費用は1万~2万円前後が一般的です。ただし、胃がんリスクに直結するピロリ菌検査の結果が陰性で、胃がんの多い家系でもなければ、毎年のように内視鏡検査をする必要はなく、3~4年に一度で十分です。ピロリ菌がいなくても胃がんになる確率はゼロではありませんが、限りなく低いとされています」(同前)
陽子線・重粒子線治療は通院費もかさむ
がん治療で近年注目されるのが「陽子線治療」や「重粒子線治療」などの先進医療だ。これまで莫大な治療費のイメージが強かったが、近年は早期の肺がんや再発した大腸がんなど一部のがんで保険適用となり、自己負担は1~3割で済む。がん治療における選択肢の一つになったが、注意すべき点はある。上医師が指摘する。
「保険適用になったとはいえ、3割負担でも70万円前後と大きな出費であることに変わりはありません。また、肺がんや大腸がんなど陽子線や重粒子線の対象となる主ながんは、従来の放射線治療で対応できるケースがほとんどです。例えば外科的手術による根治が困難な進行性肺がんの場合、従来の放射線治療であれば3割負担で医療費は20万~30万円で済みます」
さらに陽子線や重粒子線は治療を受けられる施設が限られているので、通院費がかさむ。住まいによっては泊まりがけになるケースもあるので宿泊費も発生してしまう。
「費用と効果をしっかり見極めて選択するべきです」(同前)
保険適用の標準治療でもがん治療費は高額になりがちだが、「高額療養費制度」を使うことで毎月の医療費の自己負担を一定額以下に抑えることができる。
「例えば70歳以上で世帯年収が156万~370万円の場合、がんの手術による入院などで医療費が50万円かかっても、ひと月あたりの自己負担の上限は入院と外来を合わせて5万7600円で済みます」(同前)
ただし、入院時には食事代や差額ベッド代、必要な物品の購入費用などで、保険適用外の出費が数万~数十万円単位でかかることもある。だからこそ、がんの治療や検査にも経済的な視点が必要なのだ。
※週刊ポスト2024年10月11日号