太っていないのに糖尿病を引き起こす異所性脂肪
さらに近年問題になっているのが、「異所性脂肪」です。健康診断などで指摘されることが多い脂肪肝は、本来脂肪が溜まる場所ではない肝臓に溜まったものです。肝臓以外にもすい臓のベータ細胞に溜まると脂肪膵になりインスリンの分泌が低下し、腎臓細胞に溜まると脂肪腎になり、それぞれの臓器の働きが著しく低下します。
異所性脂肪が最も溜まりやすい臓器が肝臓です。脂肪肝の正式名称は、脂肪性肝疾患であり、食べすぎ、飲みすぎ、運動不足、ストレスが重なり、摂取したカロリーが使う量をはるかに超えて過剰になると肝臓に脂肪が溜まります。
中にはお酒をほとんど飲まないのに、脂肪肝の方もいらっしゃいます。これは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれ、アルコール性脂肪肝と区別されています。NAFLDの場合は、皮下脂肪よりも内臓脂肪の蓄積が多く、そこで分解された脂肪が血液を経由して、門脈から肝臓に入ってしまうために肝臓に脂肪が溜まり脂肪肝になると考えられています。脂肪肝になると、肝臓の機能が低下し炎症がおこり肝臓が線維化します。繊維化してしまった細胞は元に戻りませんが、線維化が軽度か、死んだ肝細胞の量を示すALTやASTが正常値より少々高い程度の段階であれば治療できます。繊維化が進行すると、最終的には肝硬変や肝がんなどに移行し、命にかかわることがあり注意が必要です。
日本人の中には、それほど太っていないのに糖尿病を発症したり、お酒を飲まないのに肝臓の数値が悪化したという方もいます。この原因の1つが異所性脂肪で、糖尿病や、脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝疾患などに直結することがわかっています。このように通常細胞に脂肪が溜まることによって引き起こされる悪い働きは、「脂肪毒性」と呼ばれます。脂肪毒性によって内臓の働きが低下して、それが全身に広がり様々な臓器で障害が起こるきっかけとなっているのです。
【プロフィール】
小川佳宏(おがわ・よしひろ)/1987年京都大学医学部卒業。1993 年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。京大助手などを経て、2003年東京医科歯科大学難治疾患研究所教授。 2011年より同大学糖尿病。内分泌・代謝内科教授。内臓脂肪型肥満を背景として発症するメタボリックシンドロームや生活習慣病の成因解明と新しい治療戦略の確立をめざしている。日本肥満学会賞、日本内分泌学会研究奨励賞など多くの賞を受賞。九州大学大学院医学研究院副研究院長、東京医科歯科大学名誉教授。
取材・文/岩城レイ子