新居を建てるも夫から笑顔が消えた
移住の準備はほぼMさんだけで進め、行政には相談せず、支援金の申請もしなかったという。
「息子や老親は私のことを心配こそすれ、移住には反対しませんでした。何かあればすぐに駆け付けることを約束し、私たちは2022年11月に移住し、畑を手伝わせてくれるという男性の自宅近くに家を借りました」
毎日、大好きな富士山を望む生活。Tさんは当初、幸せそうだったという。
「夫は一日中農業の勉強をしていました。畑に通って土だらけになり、真っ黒に日焼けして……。まもなく、近くに家を建てたいと言うようになったんです」
山梨に来てまだ数か月。収入は以前の10分の1に減っていた。貯金を取り崩す生活だったため、賃貸のまま様子をみるべきではないかとMさんは反対した。
「でも夫は聞いてくれず、自宅の売却金と退職金で畑の近くに家を建てました」
2023年夏に新居が完成。そんな矢先、Tさんの様子がおかしくなり始めた。
「ため息をつき、無口になることが増えました。理由を尋ねると、畑の所有者である男性と意見が合わないようでした」