両者の間には次第に溝ができ、ついにTさんから笑顔が消えた。
「2度の引っ越しで、私は日々の生活を整えるだけで精一杯。アートフラワーの教室を開くなんて夢のまた夢。泣きたいのは私でしたが、歯を食いしばり、男性と夫の間に入って、何度も話し合いの場を設けました」
しかし、農業においては男性がベテラン。何度話し合っても平行線だった。
「男性は夫のことを、安く使える雑用係ぐらいにしか思っていないことがわかりました。もう悔しくて」
Mさんは泣きながら、「あなたのみじめな姿を見るために山梨に来たんじゃない、もう帰りたい!」と感情をぶつけた。離婚を覚悟で家出をし、息子の家に逃げ込んだ。
「このときばかりは夫が折れ、“あの男性とは縁を切ったよ”と連絡が。息子を東京においていくのは心残りでしたが、このときほど息子が心強かったことはありません。私にとって“逃げ場”になってくれたので」
ちょうどその頃、Tさんのもとには以前の職場から、「戻ってこないか」との連絡が来ていた。
「いま振り返ると、夫は移住がしたかったのではなく、仕事を辞めたかったんです。言い訳が欲しかっただけ。だから移住後の明確なビジョンがなかった。これがよくありませんでしたね。
とはいえ、それほど辞めたかったのであれば、私も復職をすすめたくはありませんでした。でも、先方が前よりもストレスの少ない、別の職場を紹介してくれ、夫も納得したようでした」