今では電車内でほぼ全員がスマホを見ている
さて現在は、電車に乗ると、乗客のほぼ全員がスマホを見ているような状況にあります。前時代的なセンチメンタリズムかもしれませんが、こうした光景には、私自身、若干寂しさを覚えるとともに不気味さを感じます。もちろん見ているページは違うし、ゲームをやったりメッセンジャーやらSNSをやるなど、それぞれが多様なことをやっているのは分かります。
しかし、2000年代前半までは電車の乗客が日刊紙、雑誌、書籍、夕刊紙を読んでいるのが普通だったんですよね。そこに人々の営みがあったし、ブックカバーを着けていない人が読む本の表紙を見ては「おっ、この本面白そう! 電車降りたら買ってみようかな」なんてことを思ったりもした。
誰かが読んでいる東スポの一面に「タイソン獄中昇天!」なんて書いてあったら「えっ、マイク・タイソンが死んだのか?」と気になって乗換駅のキオスクで東スポを買う。買ってみたら「なんだよ……、昇天の意味が違うじゃねーか(想像にお任せします)」なんて落胆しつつも、下世話なネタ満載の東スポを隅までじっくり読み、最後は駅のホームのゴミ箱に捨てる。お前はこれから誰かに拾われるからな、そのご主人様を大事にしろよ。
こんな妙な哀愁が夕刊紙にはあったのです。仕事を終えたサラリーマンが「やれやれ、今日も大変だったな。さて、夕刊フジ(日刊ゲンダイ・東スポ)でも読んで、家に帰る前にちょこっとだけ焼き鳥でも食っておくか。夕刊フジを読みながらビールと焼き鳥、最高だね、うふふ」なんて光景が目に浮かびます。
夕刊紙とサラリーマンはこのような関係性にあったのです。懐古主義に走っても仕方がないものの、夕刊フジの休刊はこれから押し寄せる紙メディアの休刊ラッシュに繋がるのでは……。
そうなると、「メディア運営は儲からない」とばかりに、休刊を決める紙媒体が続出するかもしれません。今回、夕刊フジはウェブ版のZAKZAKも更新停止するということで、ウェブに移行するどころの話ではないのでしょう。
これからのメディアはどうなるのか……。ネットニュースが「女優・○○52歳の美貌に『素敵!』『昔よりもキレイ!』と絶賛の嵐」みたいなSNS頼りの記事だらけになることも否めませんね。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。