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《緊迫の中東情勢》手嶋龍一氏「キューバ危機以来、世界は核戦争の淵に近づいている」 米大統領選にも影響、トランプ陣営にとっては反転攻勢の好機に

イスラエルのネタニヤフ首相(写真/共同通信社)

イスラエルのネタニヤフ首相(写真/共同通信社)

ネタニヤフの本当の狙い

 それにしてもこれほどの諜報能力を備えたモサドが、なぜ1年前にはガザ地区を実効支配するイスラム組織・ハマスによる奇襲攻撃を許してしまったのか。この点こそが、“ネタニヤフの戦争”を読み解く肝となる。

 イスラエル・ハマスの戦闘は、昨年10月、ハマスの奇襲から始まった。イスラエルは完全に不意を衝かれた。

 それは、イスラエルが、ヒズボラをこそ“主敵”と見なし、レバノンへの備えを優先させていたからだ。イスラエル国家の全ての触角は、ハマスではなく、ヒズボラに向けられていたのだ。

 ヒズボラは、主権国家の軍隊を除けば、世界最大の軍事組織である。イスラエルは、国防軍も諜報組織も強力なヒズボラへの備えに持てる力を振り向けてきた。その一方、ハマスを見下し、情報面でも備えが手薄となっていたため、未曽有の奇襲攻撃を許してしまったのである。

 イスラエルはハマスをたたく間、「隣の強敵」と本格的に戦うリスクを避けてきた。そしてハマス殲滅にほぼメドがついたとして、ヒズボラに矛先を向けた。ネタニヤフにとっては、人質の奪還が進まないと不満を募らせる国民の目をかわす狙いもあったはずだ。

 レバノンへの地上侵攻によって、戦争は新しいフェーズに入ったのだが、イスラエルの最大の懸念は、ヒズボラの背後に控える大国イランの存在だ。

 イランは10月1日、イスラエルに約180発のミサイルを放ったが、標的を軍事拠点に絞り抑制が利いたものとなった。テヘランもイスラエルと本格的な戦闘に入れば、第5次中東戦争に発展するリスクがあると冷静に判断しているからだろう。

 イスラエルの側も「地上作戦は限定的」とあえて表明し、イランを過度に刺激しないように努めている。ハマス、ヒズボラ、イランの三正面作戦は避けたいと考えている。

 イスラエルは情報戦にも出ている。モサドは、イランがどこで核兵器の製造を進めているか、全てを把握していると示唆し、「いつでも核施設を破壊する準備は整っている」と英米日などを介してシグナルを送っている。イランの本格参戦を封じる一種の“脅し”と言っていい。だが、戦争は「錯誤の葬列」である。相手の手の内を読み誤り、最悪を招いてしまうことがある。

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