イスラエル軍によるレバノンへの地上侵攻後、イランが大規模ミサイル攻撃を仕掛けるなど報復の応酬となり、中東における対立が緊迫度を増している。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は、現実味を帯びてきた「核戦争」の危機を警告する。
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“ネタニヤフの戦争”は新たな危険水域に入ったと見るべきだろう。イスラエル軍は隣国レバノンのイスラム教シーア派組織・ヒズボラを標的に地上軍も投入して攻撃を激化させ、第5次中東戦争に近づきつつある。
戦争の起点をどこに置くかが分析のカギとなる。
9月27日にイスラエル軍の空爆でヒズボラの最高指導者ナスララ師が殺害されたことに目を奪われがちだが、ポケベル爆破を機に“ネタニヤフの戦争”の幕は上がったと見るべきだ。空爆の10日前、ヒズボラ幹部のポケベルとレシーバーが一斉に爆発し、数千人が殺傷された軍事作戦がそれだ。
イスラエルは膨大な時間をかけて攻撃準備を重ねてきた。イスラエルの諜報機関・モサドは困難な作戦をやり遂げる高い能力を秘めていたのだ。
そもそも、市民に紛れ潜んで活動するヒズボラの幹部をピンポイントで狙い命を奪うミッションほど難しいものはない。モサドは2年以上も前から周到に準備を重ねてきたらしい。
東欧のハンガリーに爆薬を仕込んだポケベルを製造する拠点を設け、ヒズボラの周辺に工作員を潜入させて、通信機器を売り込む工作を繰り広げた。さらに「携帯電話は危険だ」というニセ情報を流してポケベルに切り替えさせる工作には舌を巻いてしまう。