重要なのは「信頼できる野党」が育つこと
そして、困ったことに、新代表の野田佳彦氏も、経済政策においては石破氏と同様の方針を掲げているのである。となると石破氏と野田氏では、経済政策に対する争点はあまりない。なので、石破氏が自民党内の調整を終えて、公約に掲げた政策(つまり本音)を実行しようとするときにこの一致は起きてしまう。当然、野田氏は裏金問題などで争点を作ってくるだろうが、経済政策ではおおむね合意することになる。経済政策という重要な問題で第一野党が野党としての機能を果たせなくなるのである。
総裁選の立候補者中で、アベノミクスを継承し、第2の矢を放つのだと明言していたのが高市早苗氏である。円建ての国債はデフォルトしないという理論を前面に出し、積極的に財政出動し、日本経済を復興させると公言していた。彼女は政治的なポジションではかなり右よりの人間だと思うが、この点のみにおいて、左派政党れいわ新選組の山本太郎氏とも意見が一致している。
さて、では経済政策において立憲民主党に第一野党の役割を担ってもらえないとすれば、どこに期待するべきだろうか。話の流れからすると、山本氏率いるれいわ新選組ということになるだろうが、山本氏は議論の立てかたがいささか乱暴で、派手ではあるが、ときおり行儀の悪さが目立つ。カウンター勢力としては貴重だが、“隠れ第一野党”の重責は現時点では荷が重い、と僕は見る。
石破首相の経済政策に対して、腰を据えてじっくり検証して批判しているのは、国民民主党の玉木雄一郎氏である。新総裁が石破氏に決まるとすぐ、玉木氏は自身の政党が目指す経済政策と石破氏のそれが相容れないことを表明している。また、アベノミクスについても、「うまくいかなかったのは、第2の矢が飛ばなかったから。財政出動で出すべきところにお金を出さないので、イノベーションが起きない。だから第3の矢の成長戦略も機能しなかった」と自身のYouTubeチャンネルで発言している。その一方で、財務官僚出身の玉木氏は、森永卓郎氏が告発する「ザイム真理教は本当にあるのか」という問いに関しても、半分認めて半分否定するという中道的な態度を取っている。
玉木氏の態度は穏当でありすぎるように感じる人もいるだろうが、このような中道的な態度は、政治的には正しいと僕は思う。いま日本の政治に重要なのは、信頼できる野党が育つことである。玉木氏の中道的なふるまいや言葉づかいこそ、いまの日本の政治には重要である。“隠れ第一野党”として、次の選挙では、国民民主党の動向には注意を払っておきたい。特に経済政策においては。
【プロフィール】
榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行し、以降シリーズ化(中公文庫)。同作のスピンオフとなる『DASPA 吉良大介』シリーズ(小学館文庫)、『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』(中公文庫)も話題。近刊に『サイケデリック・マウンテン』(早川書房)など。2016年に大藪春彦賞候補となった『エアー2.0』の続編、『エアー3.0』が9月25日に発売された(いずれも小学館)。