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「皇居を見下ろす丸紅役員室の威力は抜群だった」…リーマン・ブラザーズから371億円を詐取した日本人が明かす“地面師たち顔負け”の「なりすまし手口」

GS、リーマン・ブラザーズを騙して巨額資金を引き出した

 それが、2008年に発覚した大型詐欺の「アスクレピオス事件」である。概要は、医療コンサルタント会社・アスクレピオスの齋藤栄功氏が大手商社・丸紅の社員だった山中譲氏らと共謀し、丸紅が債務を保証する案件として数十%から100%を超える超高利回りを餌に医療機関への出資を投資家に求めたというもの。

 だが実は山中氏が準備した丸紅の債務保証書はまったくのデタラメで、投資家から集めたカネを運用することなく懐に入れて一部を配当として出資者に渡し、また新たに出資を募るという典型的な「ポンジ・スキーム」の投資詐欺だった。

 その名前からハリソン山中を連想させる丸紅の山中氏と齋藤氏が最初に狙いをつけたのは米投資銀行ゴールドマン・サックスだ。一連の事件で主犯として逮捕され、詐欺罪としては異例といえる15年の実刑判決を受けて、14年間服役した齋藤氏が振り返る。

「2007年9月末、当時丸紅の現役課長だった山中さんが東京・竹橋にある丸紅本社ビル15階の役員フロアにゴールドマンの担当者を呼んで最初の顔合わせをしました。皇居を見下ろす丸紅役員室の威力は抜群だったようで、偽の支払い保証に騙されたゴールドマンは出資を決めた。一部報道ではゴールドマンが出したのは30億円とされましたが、私の記憶では100億円ほどだったはずです」(齋藤氏・以下同)

 首尾よくゴールドマン・サックスを騙した齋藤氏らが次に目をつけたのがリーマン・ブラザーズだった。あっさりと交渉のテーブルに乗り、第1弾として98億円、第2弾として43億円を出資したリーマンだったが、第3弾の交渉中に想定外の条件を課した。山中氏の上司で、丸紅のライフケアビジネス部の部長であるS氏の同席を求めてきたのだ。

 しかしこの案件は山中氏が独断で行っており、S部長は内容を知る由もなかった。本物を登場させればポンジ・スキームが白日のもとに晒されてしまう——困った末に齋藤氏らがたどり着いたのが、「替え玉を立てる」という一世一代の大バクチだった。

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