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「皇居を見下ろす丸紅役員室の威力は抜群だった」…リーマン・ブラザーズから371億円を詐取した日本人が明かす“地面師たち顔負け”の「なりすまし手口」

高級外車を乗り回し、愛人を何人も…

 最大のヤマ場を乗り越えた齋藤氏は、この頃から集めた資金を“抜いて”、私的に流用するようになり、「我が世の春」を謳歌した。

「あの頃は東京の街がオモチャのように見えて、自分には何でもできると思い込みました。一万円札がぎっしり詰まった大型のスーツケースを渡されたこともあるし、抜いたカネでランボルギーニやメルセデスの新車を乗り回して、軽井沢に別荘も買いました。愛人も何人も囲っていました」

 だが悪事は長く続かなかった。リーマンに出資させた資金の償還期限が迫る中、山中氏の詐欺行為が丸紅の知るところとなり、真綿で首を絞められるように追い詰められた。2008年3月、ついにアスクレピオスが破綻し、司直の手が迫った齋藤氏は海外に逃亡するも、滞在先の香港で警察に拘束されて、帰国後に逮捕された。

 齋藤氏らが最終的にリーマンから騙し取ったカネは371億円。当時、この事件を知った大物投資家、ウォーレン・バフェット氏がリーマンへの融資を渋ったことが引き金になり、同年9月にリーマン本社が破綻したことから、齋藤氏は「リーマン・ショックを引き起こした男」と称されるようになった。

 それにしてもなぜ、素人のなりすましや偽造書類といった子供だましのようなポンジ・スキームが成功したのか。続く後編記事では、単純な手口にもかかわらず、一流企業が騙された背景と、犯行が露見した“思わぬ誤算”について、齋藤氏が明かしてくれた。

(後編に続く)

【プロフィール】
齋藤栄功(さいとう・しげのり)/1962年、長野県生まれ。1986年に中央大学法学部卒業後、山一證券に入社。同社の自主廃業後は信用組合、外資系証券会社などを経て、医療経営コンサルタント会社・アスクレピオスを創業。2008年に詐欺とインサイダー取引容疑で逮捕され、懲役15年の実刑判決を受けて収監。2022年6月に仮釈放された。著書に、自身の体験を記した『リーマンの牢獄』(講談社)がある。

取材・文/池田道大(フリーライター)

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