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450億円詐取まで「あとほんの一歩が届きませんでした」…ゴールドマン・サックスとリーマン・ブラザーズから巨額資金をだまし取った日本人の“最後の誤算”

過ちで築いた地位を守るためにまた過ちを犯す

 実は齋藤氏が逃亡・逮捕される直前の2008年2月、齋藤氏は一縷の望みをかけてゴールドマン・サックスに2度目の出資を持ちかけていた。最初の投資に味をしめたゴールドマンの反応はよく、交渉が捗って3億ドル(約450億円)の出資がほぼ決まった。首の皮一枚つながった齋藤氏だったが、最後の最後にゴールドマンから“ある条件”を突き付けられた。

「彼らは、契約調印の際に丸紅のCIO(最高情報責任者)が同席することを求めて来ました」と齋藤氏は打ち明ける。

「丸紅のCIOはホームページや事業報告書に顔写真が掲載されていて、さすがに白バイさん(*注:丸紅の部長になりすまして打ち合わせに同席した旧知の元警官)のようななりすましは通用しません。万事休すでした。ゴールドマンから450億円引っ張れればまだ抵抗ができましたが、あとほんの一歩が届きませんでした」

 ドラマのようななりすましに2度目のチャンスは訪れなかった。14年の刑期を終えて出所した齋藤氏が当時の心境を振り返り、最後に静かに語る。

「最初に過ちを犯してしまうと、その結果としてできあがる自分の立場を守るためにまた過ちを繰り返してしまう。私の場合も、出資金を抜いて自分のカネにして贅沢をしたり愛人を囲ったりすると、その地位を守るためにまた過ちを犯すというサイクルに陥ってしまいました。結局人は誰しも、自分を守りたいんですよ」

 先行きが不透明で多くの人が目先の利益に走り、物騒な事件が繰り返し起こっている現在。今もどこかの契約の場で、自分の立場を守るためのなりすましが行われているかもしれない。『地面師たち』のブームと「リーマン・ショックを引き起こした男」の告白からは、そんな警告が浮かび上がる。

(前編から読む)

【プロフィール】
齋藤栄功(さいとう・しげのり)/1962年、長野県生まれ。1986年に中央大学法学部卒業後、山一證券に入社。同社の自主廃業後は信用組合、外資系証券会社などを経て、医療経営コンサルタント会社・アスクレピオスを創業。2008年に詐欺とインサイダー取引容疑で逮捕され、懲役15年の実刑判決を受けて収監。2022年6月に仮釈放された。著書に、自身の体験を記した『リーマンの牢獄』(講談社)がある。

取材・文/池田道大(フリーライター)

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