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《徹底解剖》Netflixドラマが地上波を凌駕するこれだけの理由 「青天井の制作費」「時間の成約がない」…『極悪女王』『地面師たち』の“すごいこだわり”

1話に8000万円!?

 こうした企画段階の交渉は今のキー局では難しい現実がある。キー局関係者がいう。

「地上波は春夏秋冬の4クールがあり、3か月に1度、10話程度のドラマを完成させます。作品もキャスティングも“妥協”が必要になる。ネットフリックスでは制作会社など外部の人間や監督も自由闊達に企画を持ち込みます。それぞれがキャスティングや企画内容を作り込む。時間の制約という点で大きな違いがあるんです」

 制作サイドの熱意が実現する背景には「予算」の潤沢さもある。

「国内のスポンサー収入に頼る地上波と違い、世界展開する配信はヒットすれば莫大な利益が見込めるので制作費は青天井です。地上波の連ドラ予算は1クール3000万~1億円ほどですが、ある配信作品で1話に8000万円かけたと知った旧知のテレビマンは仰天していました」(同前)

 実際の「撮影現場」はどんな様子なのか。『極悪女王』にレスラー役で出演した花屋ユウが言う。

「出演したのは全5話のうち1~3話ですが、撮影は2022年7月から10月まで4か月かかりました。契約時に『4か月間、ほかの仕事は入れずプロレスラーの体型を維持する』との条件があった。主演のゆりやんさんや剛力彩芽さんはさらにその2年前からプロレスの稽古をしていたそうで、準備から配信まで約4年も費やしたことになります」

『極悪女王』の撮影は1シーンごとに強いこだわりをもって行なわれた。剛力演じるライオネス飛鳥が改名後の初戦、唐田演じる長与千種と対戦するシーンは強烈なインパクトを与えた。

「作中の映像は10分くらいですが、この試合だけで3日間+予備日の撮影日程が最初から組まれていた。結局、予備日も使って撮影は4日間。試合の場面では後楽園ホールに500人のエキストラを集め、リングの北側や南側が映るたびにエキストラを大移動させて細かく撮影しました」(同前)

 エキストラの待遇も異なる。前出のキー局関係者が言う。

「我々のドラマだと『芸能人に会える』『思い出作りに』と無料のボランティアとして撮影に参加してもらうことが多い。提供しても500円のQUOカードです。ところがネットフリックスのエキストラ募集は普通のドラマの端役と同程度の5000円支給だった」

(以下、 「【比較表】地上波と配信の制作過程の違い」と共に解説)

「ズボンのシミ」にこだわる

地上波と配信の制作過程の違い

地上波と配信の制作過程の違い

『極悪女王』と並ぶもうひとつの話題作が、豊川悦司と綾野剛のW主演で土地取引に絡む詐欺師集団の暗躍を描くクライムスリラー『地面師たち』。同作に「なりすまし老人役」で出演した五頭岳夫が撮影の舞台裏を明かす。

「最初に“ハリソンルーム”という地面師たちが集まる部屋でカメラテストだけ行ないました。出演者が全員揃っているのにカメラテストだけの日にするなんて、映画やテレビでは滅多にないです。

 そして驚いたのは、衣装合わせの時。地面師詐欺の商談時に緊張して失禁してしまうシーンがあるのですが、その際にズボンにシミがつく具合を試していた。スタイリストさんが用意したズボンのどれもいい感じのシミが出なくてね。

 僕がその時に穿いていた40年前のズボンを濡らして見せたら、すごくいい具合でシミができて“これがいい”という話になった。するとスタイリストさんは、その大昔のズボンと同じメーカーのものを2本見つけて取り寄せていた。『すごいこだわりだな』と感じました」

 ネットフリックスは多くのスタッフが参加することで知られるが、『地面師たち』も同様だった。

「役者が僕1人の撮影があったのですが、スタッフは150人ほどいました。通常のテレビドラマは数十人ほどなので驚いた。倒れ込むシーンではケガをしないように安全指導の専門家が手厚くケアしてくれた」(同前)

 テレビにはできない自由な作品作りをする一方で、米国資本のネットフリックスは撮影環境の整備が徹底して厳しいという。前出・花屋が語る。

「『極悪女王』の撮影が始まる前に白石(和彌)監督や主演のゆりやんさんら俳優陣、全スタッフが一堂に会して2時間ほどの『リスペクト研修』を受けました。講師から『周りの人を尊敬して接するように』と指導され、実際に周囲の人を褒め合う練習もしました。急ぎで撮る地上波のドラマは撮影時にピリピリしてしまうこともありますが、『極悪女王』の現場は落ち着いていました」

 地上波では激減した濃厚なラブシーンへの細やかなケアもなされている。『地面師たち』で山本耕司演じる大手不動産会社幹部の愛人役を務めた美乃すずめが言う。

「撮影の最初の段階から、『インティマシーコーディネーター』の女性と打ち合わせを重ねて、『撮影現場には私たちがいるのでご安心ください』と言ってもらった」

 こうした自由な作品作りの現場に惹かれ、テレビ業界から配信に移籍するスタッフも増えた。今年、『不適切にもほどがある!』などのヒットで知られるTBSの敏腕プロデューサー・磯山晶氏がネットフリックスに電撃移籍。『地面師たち』の大根仁監督も5年間の独占契約を結んだ。

※週刊ポスト2024年11月1日号

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