地上波テレビに代わって存在感を高めるネットフリックス(Netflix)をはじめとする有料配信サービス。ドラマやバラエティに加え、スポーツ中継の世界でも注目を集めている。
10月13~14日には、アマゾンプライムビデオが日本ボクシング史上初となる1イベントでの7つの世界タイトルマッチを独占ライブ配信。かつてボクシングの世界戦は地上波の花形コンテンツだったが、状況は大きく変わっている。テレビ制作に詳しい元朝日放送のプロデューサーで帝京大学文学部専任講師の木下浩一氏はこう言う。
「今、世界を狙える若い日本のボクサーがたくさんいて、日本ボクシング界は最高に強い時代ですが、それがあまり国民に伝わっていない。有料契約する映像配信サービスや個別のコンテンツを購入するPPV(ペイ・パー・ビュー)が普及した影響でしょう。
近年、スマホで有料の動画コンテンツを視聴するのが当たり前の世代がどんどん増えています。今の学生たちは“お金がない”“アルバイトが大変”と言いながら、2つか3つはサブスクリプションに入っている。好きな時に観られてほとんどCMがないことに慣れてしまうと、地上波には戻れない。20代で身についた視聴習慣は、30代、40代になっても変わらないから、急速に変化が進んでいくわけです」
マイナーであることが強みに
スポーツ中継でネットの有料配信が広がると「マイナーな位置づけだったスポーツにチャンスが出てくるのでは」と木下氏は言う。有料配信サービスの普及によってコンテンツは多様化。結果、“無料で多くの人が観そうなもの”より、“お金を払ってでも観る人が一定数いるもの”にチャンスがあると見られているのだ。木下氏が続ける。
「スポーツ中継が野球の巨人戦ばかりだった時代から、Jリーグができたサッカーはじめ、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどが少しずつ注目される流れがもともとあった。有料配信サービスの流行で、さらにマイナースポーツに注目が集まっていくのではないか。
さらに言えば、価値が見出されるのは各競技の世界レベルのものと、地域密着・ロカールなものの両極になっていくでしょう。ドジャースの大谷翔平が象徴的です。メジャーで活躍する大谷はお金を払ってでも観る価値があるかもしれないが、その後に日本のプロ野球を観ると見劣りは否めない。他のスポーツでもボクシングの井上尚弥やサッカーの久保建英、ゴルフの松山英樹が世界で活躍する姿が視聴できて、若い競技者もどんどん世界を目指すようになる。
一方、世界で活躍する日本人を観たいというナショナリズム的な視聴が増えるなら、同傾向にあるパトリオティズム(郷土愛)的な視聴も増えるのではないか。プロ野球やJリーグで地元チームを応援するローカル放送の視聴率が好調なように、世界レベルからは遠くても高校野球が人気になるといったローカリズムも高まり、両極が価値を見出されるのではないか」